フロウは悪い子?【フロウ・ラグランジュ】 ページ30
三杯目のジントニックを飲み干す頃、12時を告げる大聖堂の鐘が鳴り響いた。
「あれ、珍しいなァ。フロウさん、なんでまたこんなとこに一人でおるん?」
一仕事終えてやって来た大聖堂の司教、ラールは空席だったフロウの隣に座ると、バーテンダーからビールジョッキを受け取った。
フロウはラールの事など全く気にも留めていないふうに、グラスを傾けちびちびと酒を飲んでいる。彼の瀝青色の瞳はぼんやりとクマのぬいぐるみのほうを見つめていた。
「お、ありがとさん!……それで、何かあったんか?酒は嫌いやて言うとったのに」
「フロウにも忘れたいことはあるんだよ」
フロウはグラスを静かに置くと、クマのオスカーを抱き寄せた。
「最近……最近、嫌なことばっかり続くんだ。だからフロウは、記憶をなくすまで飲んでやろうと決めたのさ!いくらぼくが物覚えがよくっても、酔いつぶれるまで飲んで飲んで飲み続けたら嫌な記憶なんて飛んで行ってしまうはずだろう!?なあ、そうだろう!?」
彼がラールの方を見ると、ラールは既に二杯目のジョッキを飲み干そうとしていた。金の雫がガラスを伝い、最後の一滴が口の中へ収められる。
「そんなえらいことあったんなら、俺に言うてみや!ほら、悩みは相談したら楽になる、とか大司教さんも言うとったやろ?」
「……嫌だ。ぼくは一度言ったことは忘れることができない」
「忘れる為に飲んどるんやろ?せやったら、そんなん関係あらへんやん!」
「……そうなのかい?」
フロウは酒を一口含み口内を湿らせた。ラールからすればまだまだ大した量は飲んでいないように見えたが、フロウの顔は既に赤くなっている。
「……ラールは、アレペンティの街が火事になった話は聞いたかい?」
「アレペンティ?どこや、それ?」
「フロウが生まれた街、フロウのお父さんとお母さんが住んでた街だよ。ぼくはこの前、アレペンティの人たちにイヴィル教を教えに行ったんだ。ああ、もちろんフロウ以外の教徒も一緒に行ったよ」
オスカーも一緒にね、と付け加え、また酒を一口だけ飲んだ。
「ぼくらが来たとき、はじめはみんなその辺の異教徒たちと同じような反応をしてた。人外と分かり合えるはずはないって。それでもフロウの……ジゼラ様の演説を聞いたら考えを変える人は多かったんだ。ほかの街ではね」
「そらそうやろなぁ。フロウさんの憑依、っていうんかな。あれほんまに凄いもん」
「あれは憑依じゃない、ただの物真似だ!」
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開(プロフ) - いろいろな作品更新されたあとありますがPCが重くて間違えて触ってしまい更新された状態になってしまいました申し訳ないです、、一応触ってしまっただけなのでみなさまの文章に言葉が欠ける、増えるなどは無いです申し訳ありません (2022年3月21日 7時) (レス) id: 62c5ad2de3 (このIDを非表示/違反報告)
理紗@プロフ一部更新(プロフ) - 作者様を巻き込みたくないので出来れば他の作者のCSSに変えた方が良いと思います (2021年3月3日 2時) (レス) id: c9fefc2be8 (このIDを非表示/違反報告)
理紗@プロフ一部更新(プロフ) - 初めまして、コメント失礼します。私のCSSを変えていただけないでしょうか?どうやら再配布禁止の画像を使っていたので申し訳ないですが。大変ご迷惑をかけしました。全部が違反した分けではないのですが保証も出来ないのでよろしくお願いします。 (2021年3月3日 2時) (レス) id: c9fefc2be8 (このIDを非表示/違反報告)
流離いのsecret(プロフ) - Melcheさん» 更新お疲れ様でした! シャルルさんとテレーゼさんは前からのお知り合いだったんですね。それにしても、シャルルさん視点のお話、面白いですよね笑 軽快な書き方がとても好きです! (2021年2月22日 23時) (レス) id: af1699faf6 (このIDを非表示/違反報告)
Melche(プロフ) - 更新終わりました!最後のオチが上手くいかなすぎて泣きそうになりました() (2021年2月21日 20時) (レス) id: 10c523e9ad (このIDを非表示/違反報告)
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