時間 ページ37
「、…え？」
しばらくの沈黙のあと、小さく聞こえた声は心の底から驚いてるようで。
「俺じゃ、あかん？」
畳み掛けるように一歩近付けば、また一歩離れていく。
「…少し、待っててくれませんか」
戸惑った顔からは気持ちが読み取れず、困らせてんのか、何か踏みとどまらんとあかん何かがあるのかは分からへんかった。
「分かった、待ってるな」
でも、それでもええと思える。彼女が何か考える時間を必要としてるんなら、俺はずっと待ち続けたい。それで俺のもとへと来てくれるんなら、待たされるのがいつになってもええねん。
「そんな顔せんといて、今は笑ってようや」
久しぶりに感じるこの気持ちを手放したくないから、好きだと自覚した自分を応援したいから、今は彼女を尊重すると決めた。
「濱田さんって、ほんとっ、掴めないですね」
今にも泣きそうな顔をした彼女がそう言って笑えば、思わず抱き寄せたくなる衝動を抑えて、俺も思いっきり笑い返す。
「朝ごはん食べよか」
向かい合わせに二人で食卓に座って、黙々とご飯を食べる。思いの外その沈黙が心地よくて、時々目が合うとどちらかが先に笑うから、何だかんだ穏やかな時間やった。
「じゃあ、私そろそろ帰りますね」
食器を洗ってエプロンを外した彼女は鞄を取り、足早に玄関へ向かう。
「…あ、濱田さん」
俺も急いで後を追えば、突然立ち止まり振り返るから思わずぶつかりそうになる。
「私、濱田さんのことちゃんと好きです。だから、待っててほしいって言うのはその、」
うつむいた彼女の顔は見えへんけど、耳は赤くなってて愛らしいと思った。
「気持ちを整理する時間が欲しいんです。しばらく時間がかかるかもしれないんですけど…」
「気長に待つからええよ、ちゃんと整理ついたらおいで」
「…はい。じゃあ、また会社で」
扉を閉めた後、俺も色々と整理せんとあかんななんて、今更ながらに携帯を取り出した。
掛けた番号は他でもない淳太で、彼女に対する気持ちを伝えれば、意外にも驚いた様子はなくて。いつもの穏やかな声で、笑って言うてた。
「はまちゃんになら任せられるわ」
“幸せにしてやってな”
続く (更新停止中)
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作者名：七月雪 | 作成日時：2018年3月17日 21時
