悪戯心 ページ30
「おはようさん、だいぶ遅れてごめんなー」
「あ、濱田さん。ちょっといいですか」
しげにはとりあえず席を外してもらって、私がこっそり濱田さんと話をつける。それしか方法が思い付かなくて。部長に直接話すことも考えたけれど、今は多分、濱田さんの方が話が通りやすいだろうから。
「え、どうしたん。何かあった?」
「それがここではちょっと言いづらくて。通路の方に行きません?」
「ええよ、行こか」
みんなが心配そうな目で見守る中、部長に鉢合わせしないよう慎重に歩き始める。
「早瀬、濱ちゃん。どこ行くん二人で」
ここを通り抜ければ安心だという、一歩手前。ほんの少し歩けば目的地に着くところで遅れてやって来た部長に鉢合わせしてしまった。
「あぁ、ちょっと世間話。たまには息抜きも必要やろ」
何て言い訳をしようか考えるよりも先に濱田さんが誤魔化してくれたおかげか、部長は特に怪しむ様子もなく課に戻って行く。
「ほんで、どうしたん。みんなも様子おかしいし、淳太やったらすぐ気付きそうやけど」
「実は、こんなことがあって…」
ことの始まりから一部始終、私が知っている全てを話した時、濱田さんは私が予想をしていた遥か上の反応を見せた。
「はははっ、もしかしてそれでしげがおらんかったん?自分がなくしたと思って」
「はい、その…何がそんなに面白いんですかね?」
「いや、もうこんなん、笑うしかないやん」
「確かにそうですよね…」
「いや、ちゃうねんで?そういう意味じゃなくて、」
何が言いたいのか分からずに見つめていれば、後ろからふっと部長が現れる。
「何や、そんなことで悩んでたん。あいつも、お前らも」
そんなこと、大事な取引先の資料をなくしたことはそんなにも重要なことじゃないのか。
「なくしてへんから、ついさっきまで使ってたし」
「え、どういうことですか」
「しげ忘れてんのちゃうか、俺が今日使うから持っていくわ言うたの」
あ、そういうことか。全てが繋がってやっと意味が分かった時、安心すると同時に沸き上がる呆れた気持ち。
「部長が伝えたのっていつ頃ですか」
「昨日やけど、どうせ聞いてへんのやろ」
どうしよう、何か面白くなってきた。このまま本当のこと言わなかったらしげどんな顔するかな。
「早瀬、分かると思うけどいつもの仕返ししたらあかんで」
だけどそれは部長の優しさによって一瞬で打ち消されてしまった。
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作者名:七月雪 | 作成日時:2018年3月17日 21時