要領 ページ23
「…ごちそうさまでした、」
今までにないくらい静かすぎる昼ごはんを食べ終え、会社に戻る。
「ねぇねぇ、」
みんながパソコンと向き合って仕事をする中、私だけはやっぱり切り替えられなくて。
「何、どうしたん」
隣の席のしげに話しかければ、眉間にしわは寄りつつもちゃんと話は聞いてくれるようで。
「みんなよく、仕事に集中出来るよね。私もうそろそろパンクしそうなのに」
「まぁ、言いたいこと言えてスッキリして、お前みたいに悩んだりはしてへんやろな」
「え、そうなの?」
「当たり前やろ。いつまで引きずんねん」
「ということはしげも?私見てもう何とも思わないの?」
「…それは今別に聞かんでもええやろ」
男の人って案外あっさりしてるの?女の人の方が切り替え早いって聞いたことあるのに。
「それより、どうすんねん。部長はああ言っても、今まで通り、ってわけにはいかんやろ?」
「そう、だね。でも今更そんな風に見れないし、かといって告白されてもないのに断るのも…」
「遠回しに言えばええんちゃう?それかもうほんまに忘れるか」
前まではモテる女の人が羨ましかったけど、いざ自分の立場になると何だか複雑な気分になる。
「お前の好きなようにすればええやん」
今まで気付かなかったけど、多分私、一人で決められない人なんだと思う。だから、好きなようにとか、思うようにとか言われるとますます分からなくなる。
「直感信じたらええやん、あんま考えすぎんなよ」
自分が何をしたいのか。何を考えたいのか。
「うん、分かった…」
ゆっくりとパソコンに向き直って、とりあえず仕事をこなす。昔からそうだけど、やっぱり私は要領が悪いみたい。
「早瀬さん、もう帰ってええよ」
何も考えないように、時間になるまで仕事に没頭しすぎたせいか、若干頭が痛くて。
「あ、早瀬さん。俺も帰ります。一緒に行きましょ」
「うん、じゃあお先に失礼します」
小瀧くんが珍しく怖い顔をしていることに気付かないまま、二人で夜道を歩く。
「早瀬さん、俺、言いましたよね?」
「え?」
突然立ち止まり、振り返る彼は怒っているのか。泣いているのか。声が少し震えていた。
「もしかして、藤井くんのこと?それならきっと、誤解だと、」
「騙されてるんですよ、気付かないんですか?」
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作者名:七月雪 | 作成日時:2018年3月17日 21時