しげらしい ページ19
こういう時、何て言えばいいんだろう。何て返せば、彼を傷付けないで済むんだろう。
「藤井くんのこと好きでもないし、だからといって、しげの気持ちに応えることも…できないと思う」
胸が苦しい。チクチクと針で刺されてるみたいに、 痛くて、苦しい。
「そっ、か」
しげの普段と違う、掠れた声が聞こえて、ますます胸が締め付けられるようで。
「恋するのが、怖いの。この年で何言ってんのって思われるかもしれないけど」
ぽつりぽつりと言葉を紡ぐ。少しでも彼に、私の気持ちが伝わるように。
「そんなことないで」
それに彼なら、こんな私もきっと受け止めてくれるから。
「好きな人が出来る感覚が分からなくて、恋って何なんだろうって自問自答してるの」
一歩も前に進めない状態で、ずっとずっと同じところで立ち止まったまま。
「いつもしてるおまじない、何でしてるか知ってる?」
「…分からへん」
「弱い自分を守るため。笑顔でいればいいことが起こるって信じることで、自分を保ってるの」
あきともきっと向こうで笑ってるって言い聞かせながら、弱い自分を励ましてる。
「俺、Aのこと何にも分かってへんかったんやな」
Aはいつも笑ってるから、勝手に強いんやと思い込んでた。たまには頼ってほしい、甘えてほしいって思っても、Aには必要ないんかなって思ってた。
「それが間違いやったんやな。もっと早く、気付けばよかった」
「ううん、もう充分だよ」
あきとより先にしげに出会ってたら、彼を好きになっていたかもしれない。それくらい彼は優しくて、温かくて、私を理解しようとしてくれる人だ。
「なぁA、」
その声に顔を上げれば、さっきまでの寂しそうな表情とは一変して、いつものように笑うしげがいた。
「俺、頑張ってAのこと諦めるな?」
「ふふ、何それ」
「だから、後で後悔しても知らんで」
やっぱり最後はしげらしい。何もかも吹っ切るように笑って、私が気まずくならないようにしてくれてる。
「うん、後でいっぱい、後悔すると思う」
だから私も一緒になって笑う。しげの優しさに、たまには甘えて。
「何か変な感じやわ」
帰り際、星空を見ながらしげが話す。
「じゃあ、また明日な」
「うん、また明日」
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作者名:七月雪 | 作成日時:2018年3月17日 21時