恋なんて ページ17
気付けば彼の目からぽろぽろと大粒の涙が溢れていて、何となく、小瀧くんの言葉の意味が分かった気がする。
「藤井くんは、悪い人じゃないと思う。だって、」
“あきとの友達だもの”
「Aさん…」
“やっぱり俺、Aさんが好きです”
あぁ、何してんだろ。私。
「Aさんなら分かってくれるんやないかって、思ってました」
ふわりと香る柔軟剤。ぴたりとくっついた身体に、手を伸ばして私も抱き締め返す。
「そっか」
昔からほっとけないの。弱ってる人を、そのままにしてはおけない。だから、揺らいでるわけじゃない。はず。
「くそ、またおらんやん」
約束したのに。話そうとするたび、誰かに邪魔されてるみたいにAはまた、おらんなった。
「しげ、ちょっと話がある」
淳太と濱田さんと神山と別れて、小瀧と二人。立ち尽くす俺に真剣な目を向ける。
「何やねん、急に」
意気込んでたのもあって、ただでさえへこんでるのに小瀧は妙なことを言い出した。
「流星、気をつけた方がええよ」
「藤井?どうして?」
「Aさん、盗られてまうで…俺みたいに」
最後の言葉だけ聞き取れんくて、聞き返しても何もないの一点張りで。
「あいつ、何考えてんねやろ」
藤井の考えが読めへんって、考え込んでる。
「…気をつけろって、どうすればええねん」
もういっそ、言うなってことなんかな。言ってしまったら、今までの関係が呆気なく崩れてまうんかな。
「小瀧、」
冷たい夜風が心地よかったはずやのに。
「もう、帰ろか」
今は胸を刺すように、痛く感じる。
「Aさん、」
家の前まで送ると言われて、言われるがまま送ってもらったのはいいけど、どことなく気まずい雰囲気に息苦しく感じる。
「藤井くん、さっきの返事なんだけど」
まだ恋なんて、する気にはなれないの。だから、
「じゃあ、待っててもいいですか」
「でも、いつまでか分かんないし。もしかしたらもう、」
恋なんて出来ないかもしれない。あきとがいなくなったあの日から。私はもう、人を好きになりたくないと思うようになったから。
「あきとのせい、ですか?」
「違うの。私の問題で、あきとは悪くない」
「そう、ですか」
「送ってくれてありがとう。気をつけて帰ってね」
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作者名:七月雪 | 作成日時:2018年3月17日 21時