お兄ちゃん ページ12
「ふーん」
そっぽを向いてるけど、しげも口角上がってるじゃん。素直じゃないなぁ。
「…俺も嬉しい」
「ん？」
「何もないわ、あほ」
軽く頭を小突かれて、私もやり返す。実は聞こえてたって言ったらまた怒るのかな、なんて。
「家まで送ってく」
次の駅で降りようとすればしげも一緒に降りると言うから、丁重にお断りする。
「じゃあ、また明日ね」
「ん、またな」
今日は行くところがあるから。しげの誘いを断ったのも、そのためだ。
「…久しぶりだね、あきと」
私がおまじないをするようになったきっかけ。
「しばらく来れなくてごめんね」
お墓に水をかけて、花を添える。手を合わせて
目を瞑れば、声すら聞こえてきそうだ。
「お兄ちゃんって呼んだことなかったよね」
何となく、ずっと名前で呼んでたから。最初はお兄ちゃんって呼ぶのが気恥ずかしくて。言い慣れてからはなおすのが面倒だからって。
「よく恋人みたいって言われてさ、二人揃って兄弟ですなんて言って」
両親が離婚して名字まで変わって。本当に他人みたいになっちゃってさ。
「あきとだけが私の理解者だったのに」
喧嘩ばかりの両親を止めてたのも、いつも私の味方をしてくれたのもあきとだったのに。
「あれからおまじない、やめてないよ」
どこかで聞いてすぐにあきとに教えたら、俺もやるって言って二人で続けてこうねって約束したのにな。
「笑ってれば、笑顔になれる…」
言い聞かせるように呟く。今でも分からないよ。あきとのこと、お兄ちゃんって呼ばなかった理由。
他にもあるんじゃないかって思ってたの。家族以上の感情があるんじゃないかって。でも。
「もう会えないから分からなくなっちゃった」
恋って何だろう。好きってどんな感情なんだろう。
「あきとなら分かる？」
あきとは恋、してたのかな。
「泣かないようにしてたのに、また泣いちゃったね」
冷たい風が頬を掠める。あきとが拭ってくれてたりして。
「もう、行くね」
また来るから。そのときは恋、出来てたらいいな。
「ただいま」
家に入ってすぐ脱衣所に向かう。熱いシャワーを浴びれば全て、流れていくような気がして。
今日も頑張ったよね、私。
その日は携帯を開かずに目を閉じてすぐ、眠りについた。
しげから来てたメールにも気付かずに。
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作者名：七月雪 | 作成日時：2018年3月17日 21時
