あかるいほうへ《リク》 ページ41
声が、聞こえる。
怒鳴る男の大声と、悲痛に喘ぐ女の呻き声。分かることはそれだけだ。彼らがどんな姿をしているのか、どんな表情でいるのか。両の目をあたたかな暗闇に塞がれている自分には、見当もつかない。
もう何度も聞いた声だ。耳を塞いでも、大声で遮っても、脳の裏側にこびり付いて離れない。やめてと叫ぼうとしても、ただ、疲れきった自分の喉がヒューヒューと音を立てるだけで。
やめて、もう、やめてよ–––––
不意に、視界が明るくなった。真っ白な光と喧騒に、思わず目を細める。
右の手に感じる温度に顔を上げると、甘く柔らかい声が自分を呼んだ。
「A。」
嬉しくて嬉しくて、握られた手に力を込める。するとその手がスルリと解かれ、指先がそっと髪に触れた。
「ごめんね。」
柔らかな声にほんの少し、切ない色が混じった気がした。そのまま、トンと肩を押されてよろけた自分から、ぬくもりが離れていく。
雑踏をつん裂く轟音、遅れて響く誰かの悲鳴、花弁のように散った、赤色。
ああ、どうして。どうして俺を置いて行くの。真っ暗な向こう側へ、行かないで、行かないでよ。
追いかけようとする足を、光が捉えて。暗闇はどんどん遠ざかって。眩い光の中に、俺は置き去りに––––––––
『……っ!!』
弾かれたように起き上がると、しんと静まり返った宿舎に、自分の荒い呼吸だけが響いていた。震える手で握りしめたシーツは、汗でじっとりと濡れていて。
朦朧とする意識の中で首を巡らせると、向かいのベッドで眠る、ジスの穏やかな寝顔が目に入った。瞬間、心臓がぎりと締め付けられたように痛くなる。
俺は、どうしてここに。
気付けば宿舎を飛び出していた。絡みつく愛おしさを振り払うように、暗がりへ、暗がりへと。やがて涙で視界がぼやけて、足が痺れて動かなくて。
後のことは、よく覚えていない。
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バナナミルク?(プロフ) - 面白い作品ですね!次のお話まってます! (2019年6月29日 22時) (レス) id: a5f1ddb0b6 (このIDを非表示/違反報告)
まこと(プロフ) - スミくんだいすきです!素敵な作品に巡り会えました、更新待ってます! (2019年4月6日 8時) (レス) id: d5d41d0a16 (このIDを非表示/違反報告)
うなぎぺん(プロフ) - もちろんですよ!!これからも応援しています!! (2018年11月20日 22時) (レス) id: 935a911ca5 (このIDを非表示/違反報告)
ゆずテム(プロフ) - うなぎぺんさん» ええええご存知でしたか!?!?こちらこそびっくりです嬉しいですありがとうございます…!!自分も頑張ります!!こちらこそきゅんきゅんですよー!応援してます!! (2018年11月19日 11時) (レス) id: 9c2c49a1ac (このIDを非表示/違反報告)
うなぎぺん(プロフ) - ゆずテムさん» !?!?ゆずテム様!?!?ビックリしましたありがとうございます…頑張ります…(泣)あの、小人の家政婦シリーズ大好きです!!ずっとジフンさんにきゅんきゅんしてます!! (2018年11月19日 0時) (レス) id: a3124c60f4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:うなぎぺん | 作成日時:2018年7月28日 19時