検索窓
今日:35 hit、昨日:23 hit、合計:436,265 hit

あかるいほうへ《リク》 ページ41

声が、聞こえる。


怒鳴る男の大声と、悲痛に喘ぐ女の呻き声。分かることはそれだけだ。彼らがどんな姿をしているのか、どんな表情でいるのか。両の目をあたたかな暗闇に塞がれている自分には、見当もつかない。

もう何度も聞いた声だ。耳を塞いでも、大声で遮っても、脳の裏側にこびり付いて離れない。やめてと叫ぼうとしても、ただ、疲れきった自分の喉がヒューヒューと音を立てるだけで。


やめて、もう、やめてよ–––––


不意に、視界が明るくなった。真っ白な光と喧騒に、思わず目を細める。

右の手に感じる温度に顔を上げると、甘く柔らかい声が自分を呼んだ。


「A。」


嬉しくて嬉しくて、握られた手に力を込める。するとその手がスルリと解かれ、指先がそっと髪に触れた。


「ごめんね。」


柔らかな声にほんの少し、切ない色が混じった気がした。そのまま、トンと肩を押されてよろけた自分から、ぬくもりが離れていく。

雑踏をつん裂く轟音、遅れて響く誰かの悲鳴、花弁のように散った、赤色。


ああ、どうして。どうして俺を置いて行くの。真っ暗な向こう側へ、行かないで、行かないでよ。

追いかけようとする足を、光が捉えて。暗闇はどんどん遠ざかって。眩い光の中に、俺は置き去りに––––––––



『……っ!!』


弾かれたように起き上がると、しんと静まり返った宿舎に、自分の荒い呼吸だけが響いていた。震える手で握りしめたシーツは、汗でじっとりと濡れていて。

朦朧とする意識の中で首を巡らせると、向かいのベッドで眠る、ジスの穏やかな寝顔が目に入った。瞬間、心臓がぎりと締め付けられたように痛くなる。


俺は、どうしてここに。


気付けば宿舎を飛び出していた。絡みつく愛おしさを振り払うように、暗がりへ、暗がりへと。やがて涙で視界がぼやけて、足が痺れて動かなくて。

後のことは、よく覚えていない。

あかるいほうへ→←Twitter



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (463 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
1439人がお気に入り
設定タグ:SEVENTEEN , セブチ , 男主
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

バナナミルク?(プロフ) - 面白い作品ですね!次のお話まってます! (2019年6月29日 22時) (レス) id: a5f1ddb0b6 (このIDを非表示/違反報告)
まこと(プロフ) - スミくんだいすきです!素敵な作品に巡り会えました、更新待ってます! (2019年4月6日 8時) (レス) id: d5d41d0a16 (このIDを非表示/違反報告)
うなぎぺん(プロフ) - もちろんですよ!!これからも応援しています!! (2018年11月20日 22時) (レス) id: 935a911ca5 (このIDを非表示/違反報告)
ゆずテム(プロフ) - うなぎぺんさん» ええええご存知でしたか!?!?こちらこそびっくりです嬉しいですありがとうございます…!!自分も頑張ります!!こちらこそきゅんきゅんですよー!応援してます!! (2018年11月19日 11時) (レス) id: 9c2c49a1ac (このIDを非表示/違反報告)
うなぎぺん(プロフ) - ゆずテムさん» !?!?ゆずテム様!?!?ビックリしましたありがとうございます…頑張ります…(泣)あの、小人の家政婦シリーズ大好きです!!ずっとジフンさんにきゅんきゅんしてます!! (2018年11月19日 0時) (レス) id: a3124c60f4 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:うなぎぺん | 作成日時:2018年7月28日 19時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。