シトロン (ページ22)

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「いやいや、全然大丈夫だから！今休憩中だし！だよね、志摩」

電話越しの志摩さんが「職権濫用で多駒さんと飲みに行ったのか？」と訪ね、伊吹さんが「んな人聞きの悪い事言わないの、ちゃんと合意の元です〜」と返す声が聞こえる。

「というか、全然迷惑じゃないよ。昨日で俺達もう友達越えて親友ぐらいにはなったじゃん？腹割って話したもんね〜」

『…そうなんですか？すいません、全く記憶が無くて』

「……え！？全く？昨日の二人で日本変えてこうって話は？」

『すいません、職場の不安をぶちまけた所から何も覚えた無くて』

「えぇ……そっからだったのに！そっから俺達親友になってさ、とりあえず名前呼びにしようぜって事になって」

そんな「二人で日本変えてく」とか「親友になったから名前呼び」なんて事全く覚えていない。そもそもなんで二人で日本変えようとしてるんだ？話のスケールが大きすぎる。

『なんで私達日本変えようとしてるんですか……それも二人で』

「まじで？そこも覚えてないの？超盛り上がったのに…」

電話越しから志摩さんの笑い声が聞こえる。どうやら落ち込む伊吹さんを「どんまいどんまい(笑)」と慰めているらしい。

『いや、本当にすいません。家まで運んでいただいて』

「おっけー、おっけー。めちゃくちゃ軽かったし！なんならお茶ご馳走になっちゃったからね」

泥酔した私は何とかお茶は出したみたいだが、"めちゃくちゃ軽かった"という事はやはり家まで運んでもらったらしい。その時、電話越しの志摩さんが伊吹さんに「もう休憩終わるぞ」と声をかけた。

「あ、もう休憩終わりだから切るね！また今度飲みに行こうぜ、親友として」

『はい、また今度、昨日はありがとうございました！』

電話越しに「じゃあね〜」という声が聞こえて、電話が切れる。電話が切れた途端、テーブルに突っ伏した。

『……恥ずかし』

え？こんなに恥ずかしいことってありますか？というレベルで恥ずかしい。つまり要約するとこうだ。あの日居酒屋で伊吹さんと飲んでいた私は、最初こそ愚痴や何やで大人しく飲んでいたものの、次第にお酒のペースが早まり完璧に泥酔した後、伊吹さんと何かの話題で盛り上がり、親友になったり日本を変えようとしたわけである。

テレビから流れる「ネットリテラシーが」という話題も、今やただのBGMと化していた。