シトロン (ページ3)

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その途端に隣の家族から話を聞いていた伊吹という刑事がハッと顔をあげた。と言うよりも、この場にいる刑事2人が私の顔を穴が空くほど見つめている。

『あの、どうしたんですか？』

「その話、詳しく聞かせて貰えますか？」

『詳しくって言われましても……』

情報漏洩が怖いので安易に喋る訳にもいかず、仕方なしにそう答えた。実は昨日来た刈谷という刑事に「もし4機捜の志摩って奴が来ても何も知らせないでくれ」と頼まれてしまったのである。4機捜の志摩っていう刑事は間違いなく目の前のこの人なのだ。

「もしかして、刈谷刑事に何か言われてますか？4機捜の志摩って奴には何も言うなとか」

あまりにも図星すぎて言葉に詰まる。沈黙は肯定だなんてよく言ったものだ。その通りだと痛感する。

「じゃあ、俺に言うのはどう？俺は伊吹だから志摩じゃないよ」

志摩さんの横に立って話を聞いていた伊吹さんがそう提案する。「そんな事言ったって貴方達絶対情報共有するでしょ。」という言葉を飲み込んで折り合いの良さそうな提案をする。

『じゃあ、刈谷さんも知っている事だけを話しますよ』

提案に志摩さんは怪訝な表情をしたが伊吹さんは「ありがとう！」と乗り気だ。とは言っても刈谷さんは中堂さんと相性が悪かったらしく有益な情報は分からず仕舞いだったが。あの2人の争いは特撮映画でも見ているかのような気分だった。

『と言っても、刈谷さんは担当の解剖医と相性が悪くて何も……』

「えぇ……」

伊吹さんが分かりやすく落胆する。そりゃそうでしょうね。昨日は私だって落胆しました。中堂さんももう少し丸くなれば良いのにと何度願ったことか。

「そこをなんとか教えて貰えませんかね？」

志摩さんが交渉してくる。伊吹さんも物凄い勢いで頷いてるし。何だこの二人。私がペラペラ喋ったら中堂さんに何て言われるか。想像しただけで胃が痛い。

『私は担当ではありませんので……担当がいない所ではなんとも』

曖昧に笑って誤魔化す。その様子を見て志摩さんが何かを察したようだった。伊吹さんも相変わらず穴が空くんじゃないかと言うぐらい私を見てくる。私はそんなに怪しいのか。