好奇心と恐怖心 ページ6
今日はなんとなく、トレーニングルームに来てみた。最近マフィアの動きが怪しいとか事件が多いとかでパトロールに回るよう言われていたのだが、僕は町中をうろつくのは嫌いだ。ほかの職員たちは忙しそうで……だからこそ、誰もいないだろうと思ってここに来た。
期待した通り、トレーニングルームは暗く、換気扇の音だけが響いていた。僕は電気と空調をつけて早速室内を見回してみた。正直、ルームランナーだとかダンベルだとかならともかく、使い方も目的も分からない機材が多すぎる。だんだんと退屈になってきた気もするが、人の多いところにいるよりはずっといい。それになにより、兄弟が隣にいてくれる。
「なぁ、お菓子でも食べないか?」
「今朝アルバさんにもらったやつ?食べよう!」
僕はお菓子のパッケージを開けて、紫色のグミを口に放り込んだ。
「これは……ぶどう味かな?」
「うん、悪くない」
「僕はこういうの好きだな」
「……また、くれるかな」
「どうだろう。あの人、僕らのことをどう思ってるのかな」
「分からない」
兄弟の手が僕の手に触れた。
「何があっても、僕がいるからね」
僕らはしばらく、互いのことを見つめあっていた。
だがふと、兄弟の後ろに誰かいるのに気が付いた。
「誰だ!」
僕は腰に下げた剣に手をかけ、身構えながら振り返った。そして僕は、すぐに後ろを向いたことを後悔した。こいつの存在に気づいてしまったことが運の尽き、とでも言うべきだろうか。
そこに立っていたのは、まるで生きているとは思えないような不気味な女だった。悪天の夜空よりもずっと暗く恐ろしげな瞳がじっと僕のほうを見ていた。目をそらせば殺されるような気がして、僕は動けなかった。
「……あなた」
女は何の前触れもなく口を開いた。反射的に剣を抜き、その場で構える。
「一人でおしゃべりしてたの?」
一人なわけがあるか、僕は兄弟と二人きりでいたんだ、と叫んでやりたかったが、なぜだか声が出ない。
「面白い人……あなたのこと、知りたいな」
女が手を僕のほうへ伸ばしてきた。
「……やめろ……僕に触るな!」
僕は無我夢中で剣を振り回した。女は一瞬動きが止まった。その隙に、僕はその場から逃げ出した。全速力で走って、走って……エレベーターの中に逃げ込んだ。適当な階のボタンを押し、「閉」ボタンを連打する。
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作者名:芋煮屋 | 作成日時:2020年10月18日 20時