Jack of all trades (ページ25)

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STORY_02 きえたおとこページ25

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数少ない荷物を段ボールに詰めて廊下を歩く海人を見た時、本能的に思った。

『彼を引き止めるべきだ』

と。

あれだけ優秀な人材を、たった一つの誤解で失うのは勿体無い。
そう思った俺の行動は早かった。

川島「海人くん！」

驚いたような顔の海人が俺を見て、其の儘2人は立ち止まったまま、時が止まったように身動ぎひとつでさえ出来なかった。

川島「海人くん、俺の課に来ない、？」

中村「五課に、ですか」

川島「そう、海人くんならきっと……」

中村「辞めてください、そういうの。俺、もう届出提出したので。」

川島「上には俺が言っとく、だからお願い！俺は海人くんと、仕事がしたい」

一か八かの勝負だった。
第1に、そんな権力が俺には有るかすら微妙だったのだから。
無名の課の課長という身分で、1度出された退職届を取り消しにしてもらえるなんてそう簡単に出来たものでは無い。
でも駄目だ。
絶対に、失ってはいけないんだ。

川島「元太くんも、来るって」

海人を引き留めることに精一杯で、ありもしない事実を言ってしまったのは許して欲しい。
当時はそれだけ必死だったのだから。

『元太』、たった一つのその単語だけで、今まで放っておけとでも言いたそうだった海人の態度はガラリと変わった。
スタスタと歩いていた足を止め、驚いた顔で俺を見つめる。

中村「それは、本当ですか」

最後の、チャンスだ。
深呼吸をして、俺は真っ直ぐ海人の目を見た。

川島「本当、だよ。」

綺麗な、緑色の瞳だった。