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時計の針は深夜2時刺す手前。
明らかに偽名である「兎」と名乗って突然俺の前に現れたこの男の正体を突き止めるべく、奴の荷物を探るタイミング伺っていた。
「兎クン。」
呟いて相手の様子を伺う。隣の男は何の反応もなく、呼吸の乱れも感じない。一定のリズムを保ったまま寝息をたて、深い眠りに入っていることを確認した。
呑気なこったな。警戒心ってもんがねえのか。本当に敵意がないのか。
それとも生粋の馬鹿か。
するりとベッドから抜け出して奴のカバンを探るが、馬鹿なりに少しは警戒していたらしい。荷物には鍵がかかっていて、この施錠を外すには４桁の暗証番号が必要なようだ。
こいつだってとても大金持ち歩いているとは思えない。頑丈なロックは貴重品などではなく、何か俺に知られてはいけない情報がこのカバンの中にあることを示唆しているように思う。
今思えば、このエイリア石とやらをこいつから奪ったことがそもそも奴の策略なのではないかとさえ疑えた。
兎は初めから俺にこの石を渡すつもりだったのだとしたら。
奴を起こさないよう、再びベッドに戻りながら考える。こいつは何を企んでいるのか。俺を何に利用するつもりなのだろうか。
時計の針は2時を過ぎる。考えがまとまらず意識が夢の中へ半分落ちかけた瞬間、小さく呟いた奴の寝言で現実に引き戻された。
「あきおくん」
奴のカバンを探っていたことがバレたのかと身構えたが、どうやらそんな様子でもない。数秒後、今目を覚ましたというように、ゆるりと起き上がった奴はおもむろに目をこすってぼうっと空虚を見つめていた。
しばらく様子を伺うと奴はズルズルと身体を引きずるようにシャワー室の方へと向かった。便所にでも起きたのかと思った瞬間、響き渡ったえげつない嗚咽の音にさすがの俺もギョッとした。
「ったく、どんだけ貧弱なんだよ。またゲロ吐いてんのか。」
あまりに苦しそうな呻き声に思わず足早にシャワー室に向かった。
「しっかりしろよ。」
背中をさすれば一瞬驚いたように背中を震わせたものの、嘔吐に必死なのかこいつは大人しく撫でられた。
こんな名前通りウサギみてえに弱い奴、構ったって何の得になりゃしねえ。こんな風に介抱してやる義理もない。
それなのに俺の中に僅かに残った善意ってやつが、この男にお節介焼けって脳に信号かけていやがるらしい。
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作者名：19 | 作成日時：2021年8月16日 0時
