・ ページ11
次にしっかりとした意識を取り戻した時には時計の針は午前7時を指していた。
夜中にゲボ吐いてトイレにうずくまっていたことはぼんやり覚えている。明王の夢を見たことも。現実の明王が背中さすって介抱してくれたことも。
夢の記憶を頭の中で反芻した。幼いおれと明王が同じ保育園に通っていた映像。あれは多分夢特有の架空の出来事なんかでなく、おれが実際に体験した事実の記憶に基づいたシチュエーションだ。
幼少期の記憶が曖昧なのは何も、おれに限った話でもないだろう。
稀に母親のお腹の中のことを鮮明に記憶しているという人間もいるけれど、大抵は２、３歳の頃のことなんてその時見た悪夢とかトラウマくらいしかまともに記憶していないんじゃないだろうか。
おれだってそうだ。保育園の記憶なんて思い出そうとしてもほとんどぼやけて見えやしない。
それでも同じ組の奴らの苗字くらい覚えているもんだし、忘れていても聞けばああそうえいば、と思い出せる。
それなのに不動明王にはそれがなかった。
不動明王の顔を見た時も、その名前を初めて聞いた時も、あー同じ保育園にそんな奴がいたな、なんて思い出しもしなかったし引っかかりもしなかった。
人間の脳みそなんてこんなものなのだろうか。
それとも度重なるあの変な頭痛のせいで本当に脳みそやられちゃってたりして。
「いつまで寝てんだよ、さっさと起きろ。」
どん、と布団越しにおれの背中に衝撃が走る。
お先に起床してとっくに帰る支度済ませた明王がベッドに丸まったままのおれを鞄で殴りつけたのだとわかった。
「いてえー。」
「さっさと準備しろ。帰るぞ。」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：19 | 作成日時：2021年8月16日 0時
