髙木さんと伊野尾さんの短編集3 (ページ43)

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そう言って悲しげに俺から目を背ける。君にそんな顔させるやつは誰？何だろう？何か胸がモヤモヤする。締め付けられる。

切なげで、儚げで、愛おしそうに新しいお酒に目をやって、伊野尾君は一口お酒を飲む。そんな顔しないでよ。ねぇ？誰を思ってるの？なんでだろう？悔しい。。。

「伊野尾君にそこまで思われてるその人が俺は羨ましいけどね。」

思わず呟く。

「はぁ？」

伊野尾君はちょっと怒ったように言ってきた。

「だって。伊野尾君みたいな人に思われたらきっとどんな人だって嬉しいよ。」

そう言って俺は持っているお酒を一気に飲み干した。

そうだよ、その可愛くて綺麗な笑顔が自分のためだけに向けられたら、その綺麗な手で自分にだけ触れてもらえたら、そのふわっとした唇で自分の唇を塞がれたら、殆どの人が嬉しいって思うでしょ。そのうえ、頭良くて、優しくて、人の気持ちに敏感で、聞き上手で、気が利いて、こんなパーフェクトなやついるかよ。

「男女問わずモテる伊野尾君に、結婚したいとまで思わせられるそいつが俺は心底羨ましいって言ってんの。」

と俺は思わず吐き捨てるように言ってしまった。何だろう、俺。何にムキになってんだろ。

「お前、それ、どこまで本気で言ってる？」

と伊野尾君が静かに話し出す。なんか、怒ってる？

「へ？」

「そんな思ってもないこと言うなよ。」

そう言ってる伊野尾君の声は震えている。

え？

なに？

どうしたの？

「伊野尾君？」

「そんな思ってもないこと言うなって言ってんの！何なんだよ。何にも覚えてねーくせに。何でそんなこと言うんだよ。もうこの話は終わりって言ってんのに。」

そう言って酒を置いて、

「俺、もう帰る。」

と俺の家を出ていこうとしたから、俺はびっくりして急いで伊野尾君の腕を掴んで引き留める。

「え？待って？何で？何で？俺そんなに酷いこと言った？ごめん。そんなつもりじゃ。」

え？泣いてる？

伊野尾君？

「ごめん。ちょっと飲み過ぎたみたい。頭冷やしながら帰るから。」

そう言った伊野尾君はもう怒ってる感じではなくて、そのかわり声が震えてて、泣いていた。