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「なんか話してよ。たのしかったこととか、好きやったこととか。」
タツにそんな要求をされて、私は子どものときのことを手当たり次第に思い出して、つぶさに並べてみる。
三角広場と呼ばれた公園。午後5時のチャイム。全然当たらない駄菓子屋のくじ。教科書のすみに描いたパラパラ漫画。体育倉庫の跳び箱やマットのにおい。スクールバッグにつけたマスコット。通学路にあるおおきな木。夏の暑い日のおおきな木の影。友達の恋の話。
高校生のとき、七夕に海へ行ったことがあった。
事前に綿密な計画を立てて、電車と、その日の最終バスを乗り継いで、天の川を海まで見に行った。親には友達の家で泊まりで試験勉強をすると嘘をついた。
だけどその日はくもりで、笑っちゃうくらい雲がぶ厚くて星なんてちっとも見えなくて。次の日の朝、始発のバスでくたくたになりながら家に帰ったら、親には嘘もバレていて、こっぴどく叱られた。
星は見えなかったけど、曇った空とぼやけた海はどうしてかとても綺麗に見えて、今でもはっきりと思い出すことができる。
私はあの時からずっと、海が好き。
そんな話をとりとめもなく、ぽつぽつと話している間、タツは「ふうん」とか「へえ」とか適当にも聞こえる相槌をうって、たまにやわらかく笑ってうなずいた。
ひとしきり話し終えた私は、膝をかかえたままソファの背もたれに背中をしずめる。
胸の中がざわざわとして、奥のほうがぎゅうっとした。昔のことを思い出すといつもこうなるのだ。
「…過ぎていったことって、たのしかったことでもなんでも全部、思い出すとすごく淋しくなっちゃうの、なんでなんだろう。」
まぶたを閉じてみると頭の中にうすい膜がはられたような感覚になる。
「それは、もう戻られへんからちゃう。」
タツは静かな口調でそう言った。
「…ねえ、タツ」
「うん」
「ここに居ることに…私といることに飽きたら、いつでも他のとこに行っていいんだからね。」
眠気で思考が鈍くなって、いくらかとろい口調で私は、だけどちゃんとタツにそう告げた。
ソファに接した体の部分がじんわりと熱を持ってきて、頭の中の膜がさっきより分厚くなったような気がした。
「どこも行かへんよ。」
しばらくして、タツの声がずっと遠くのほうでそう言った気がしたけれど、そう言わなかったかもしれない。
私はそのまま、深い眠りの中に落ちていった。
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蒼 夢見子(プロフ) - まゆ☆まゆさん» まゆ☆まゆ様、お久しぶりです…！早速コメントくださりありがとうございます。かなり前のお話をまだ読み返していただけてうれしいです…(T . T)少しずつの更新にはなりますがお付き合いいただけると幸いです！ (2022年11月20日 18時) (
レス) id: a5f8e6e331 (このIDを非表示/違反報告)
まゆ☆まゆ(プロフ) - お久しぶりです。数日前に満月の夜は〜を読み返したばかりです(^^)また蒼夢見子さんの新作読めるの嬉しいです♪続きも楽しみにしてます。 (2022年11月20日 6時) (レス) id: 9548b7921c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：蒼 夢見子
| 作成日時：2022年11月20日 0時
