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「遅いから、心配したわ。」
家に帰ると、ソファに座っていたタツは私を見てすっくと立ち上がった。
部屋の中はあたたかく、夕飯のにおいがする。なにか煮物のようなやさしいにおい。
「残業？」
「ううん。」
「耳、真っ赤っかやん。ずっと外おったん。」
私の近くまでくると、タツは耳の前にあった髪の毛をよけてそっと私の耳に触れた。いつも通り、その手はあたたかくもつめたくもない。
「うん。迷子の猫、助けてた。」
「迷子の猫？」
「いつも通る交差点に貼り紙があってね。その猫をたまたま、見つけて。まあ、猫を見つけたのは会社のひとだったんだけど。」
私は首に巻いたマフラーをほどきながら、タツに説明する。
「会社のひとと一緒とか、めずらしいな。」
「歯ブラシ買いにコンビニ寄ったらたまたま会って。」
「もしかして、この間の、なんやっけ。日なたのひと？」
台所に向かったタツは足を止めて、私のほうを振り返ってちいさく首をかしげた。
「あ、そう。よくわかったね。」
私はコートを脱いで壁掛けフックにかかっていたハンガーにマフラーとコートをかける。
「丸山さんっていうんだけど、すごいんだよ。まるでありふれた挨拶するみたいに、このマフラーの色ほめてた。」
「ふうん。」
タツがコンロのスイッチを押して、チッチッチッと音が鳴る。ガス台の上には圧力鍋ーータツに言われて今年の初売りで買ったこぶりのものーーが乗っていた。
「…そういうの、私とかが誰かに言ったらなんか可笑しくなっちゃうのに、自然と言えるのってすごいよね。ーーところで、今日の夜ご飯って」
私がシンクの蛇口から水を出し、手を洗いながら圧力鍋の中を覗きこむのとほとんど同時にタツが、おでん、とつぶやいた。
「それで、嬉しかったん？」
「…ん？」
タツは鍋に視線を落としていたから、一瞬なんて言ったわからなかった。私が聞き返すとタツは顔だけすこしこちらに向けて、横目で私を見た。
「マフラーの色褒められたの、Aちゃんは嬉しかったんって。」
「…ああ、まあ。この色、私も気に入ってるし。色のことなんて誰にも言われたことなかったから。」
思ってもみないことを聞かれて曖昧な口調でそう答えたけれど、よかったやん、とタツは口角をあげたから私はなぜかほっとする。
時々、タツがなにを考えているかよくわからないことがあった。
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蒼 夢見子(プロフ) - まゆ☆まゆさん» まゆ☆まゆ様、お久しぶりです…！早速コメントくださりありがとうございます。かなり前のお話をまだ読み返していただけてうれしいです…(T . T)少しずつの更新にはなりますがお付き合いいただけると幸いです！ (2022年11月20日 18時) (
レス) id: a5f8e6e331 (このIDを非表示/違反報告)
まゆ☆まゆ(プロフ) - お久しぶりです。数日前に満月の夜は〜を読み返したばかりです(^^)また蒼夢見子さんの新作読めるの嬉しいです♪続きも楽しみにしてます。 (2022年11月20日 6時) (レス) id: 9548b7921c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：蒼 夢見子
| 作成日時：2022年11月20日 0時
