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「ーーあれ」
仕切りのような引き戸を開けるとすぐあらわれる7畳ほどの居間。
部屋のはじっこ、フロアスタンドの電球がひとつだけ点いたうす明かりの中、ソファに寝そべってごくわずかなヴォリュウムでテレビを観ていた彼は体を起こした。
「どうしたん。」
おおきなその体をのそりと起き上がらせて私に近づくと、私の顔をじっと覗き込んでくる。
「ちょっと、喉渇いたから水飲もうと思って。」
「眠れへんの？」
その端正に整った顔をしかめて私を見た。
それから、おおきな手が伸びてきて、すうっと親指の腹が私の下まぶたを撫でる。いつも通りすこしつめたく乾いた指先。
「ごめん、テレビ観てたんでしょ。」
続きをどうぞ、の意味で手のひらをソファの方に向けたけれど、その手はいくらか強引に掴まれ、なぜか私がソファに座るよう促された。
「今なんかあったかい飲み物淹れるわ。」
そう言ってから手狭な台所に立つ彼の広い背中を私はソファに体を沈めながら眺める。
静かな深夜の部屋の中、ちいさなテレビの音やガスコンロの火をつける音にひどくほっとした。
「タツ」
「うん？」
名前を呼ぶとこちらを振り返るふわふわとした深い焦茶の髪の毛。
鼻先にかかったような甘い声。私はこういうとき、彼が何者であるかも忘れてすこしどきりとしてしまう。
「…なに淹れてるの？」
「ホットココア。」
口角をやわらかく上げてそう言うこのひとがこの部屋に居候し始めてもうすぐ2回目の冬がくる。だけど、タツは私の家族でも恋人でも友人でもない。
それどころか、なんと、人間でもない。
タツは私にしか見えない幽霊だった。
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蒼 夢見子(プロフ) - まゆ☆まゆさん» まゆ☆まゆ様、お久しぶりです…！早速コメントくださりありがとうございます。かなり前のお話をまだ読み返していただけてうれしいです…(T . T)少しずつの更新にはなりますがお付き合いいただけると幸いです！ (2022年11月20日 18時) (
レス) id: a5f8e6e331 (このIDを非表示/違反報告)
まゆ☆まゆ(プロフ) - お久しぶりです。数日前に満月の夜は〜を読み返したばかりです(^^)また蒼夢見子さんの新作読めるの嬉しいです♪続きも楽しみにしてます。 (2022年11月20日 6時) (レス) id: 9548b7921c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：蒼 夢見子
| 作成日時：2022年11月20日 0時
