「日なたのひと」 ページ6
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月曜日。
職場までは徒歩20分。赤信号で止まった交差点の電信柱に、迷い猫のポスターが貼られていた。
フキちゃん。女の子。7歳。三毛猫で赤い首輪を着けています。見かけた方は下記の電話番号までご連絡ください。
信号が変わるまで私はそのポスターをぼんやりと眺めて、いっそタツもこんなふうに写真を貼り出して手がかりを集められればいいのにと、そんなことを思った。
海と工場、それから坂しかないこの町では、なにも起こることがない。退屈な町。退屈すぎてどこか現実ばなれしていると思えるくらい。
でも、私はこの町の退屈なところが好き。心が揺れ動くような楽しいことも悲しいこともない。自分が毎日すこしずつ歳を取っていっていることにまったく気づかないくらい。時間が止まってるみたいな静かでなにもない生活。
その上、いまでは私は幽霊と暮らしている。
恋人も友人もいない、もうすぐ30にもなろうという女が若い男の幽霊と暮らしてるなんて、誰にも信じてもらえるはずがない。
タツのおかげで私の人生はますます現実味がないものになっていた。
かすかに潮の入り混じったしめった風に髪の毛をなびかれながら、私は今朝のタツとの会話のことを考える。
「Aちゃんも恋とかすればええのに。」
朝ご飯を食べる私の向かいで、手持ち無沙汰そうに頬杖をついているタツが突拍子もなくそんなことを言った。女子高生みたいな、軽くて明るい会話のトーン。
「急になんの話？」
トーストを持ち上げる手を止めてタツを見る。いくらかとげとげしい聞き返し方になってしまったかもしれない。だって、その手の話題は苦手だから。
「ずっと思っててん。」
だけどタツは怯む様子もなく続ける。
「べつにさ、恋やなくても、誰かがそばにおるとええこともあるやん。Aちゃんいっつもひとりやし、このままおばあちゃんになるん？」
「…そういうの、余計なお世話って言うんだよ。人間って誰かといたいひとばっかりじゃないし。」
私はムッとして、いくらか乱暴にトーストをかじった。私の心中と反した、さくり、と潔い音。
「それに、今のままで私はいい。ずっとそうだったし、これからもきっとそう。このままおばあちゃんになるの。」
タツは納得のいかないような、眉尻を下げた困った顔のような変な顔をしていた。その顔を思い出して私はなんだかもやもやとする。
信号が青に変わった。
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蒼 夢見子(プロフ) - まゆ☆まゆさん» まゆ☆まゆ様、お久しぶりです…！早速コメントくださりありがとうございます。かなり前のお話をまだ読み返していただけてうれしいです…(T . T)少しずつの更新にはなりますがお付き合いいただけると幸いです！ (2022年11月20日 18時) (
レス) id: a5f8e6e331 (このIDを非表示/違反報告)
まゆ☆まゆ(プロフ) - お久しぶりです。数日前に満月の夜は〜を読み返したばかりです(^^)また蒼夢見子さんの新作読めるの嬉しいです♪続きも楽しみにしてます。 (2022年11月20日 6時) (レス) id: 9548b7921c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：蒼 夢見子
| 作成日時：2022年11月20日 0時
