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(you-side)
AAAのデビュー日。
CDを買った私は、病院にやって来ると陽斗の病室…………ではなく、隣接する精神病棟科へ足を運んだ。
綾瀬千弦(アヤセチヅル)と書かれたネームプレートを見て、私は静かに扉を開けた。
「……寝てるの?」
ベッドに横たわり目を閉じる姿を見て、何故かホッと息をつく。
隣に座り、まるで純真無垢な赤子のように眠る彼女の手をそっと取った。
「ごめんね、前に来たの…1ヶ月くらい前だったかも」
ここに来るのは足が重い。
いつもいつも胸が締め付けられて、苦しくなる。
「……今日は、大事な人達の大切な日なんだ」
ふ、と微笑んでCDを見せた。
「格好いいでしょ?AAAっていうグループなの。デビュー前だけど、私もそこにいたんだよ」
スヤスヤと眠る彼女に、ただ一方的に語りかけた。
……これだけ話せるのも、彼女が眠っている今だからなんだけど。
「私、メインボーカルだったんだよ。ダンスもやってたの」
やめちゃったけど、と続けて嘆息する。
「……やっぱり私は、音楽には向いてないのかな…」
こうして音楽から逃げたのは‘2度目’。
AAAをやめてから、私は1度も歌っていない。
「ねぇ……教えて………………ママ」
「………ん、」
「!」
ピクリと手が動いて、彼女……ママの目がゆっくりと開く。
透き通った瞳が私を捉えると、優しく微笑まれた。
「……来てくれたの、」
その後に続けられた名前は掠れて、よく聴こえない。
だけど、動く口の形は私の胸を締め付けた。
「…………うん、久しぶり」
BLOOD on FIRE
私がいた頃に練習していたものとは違う曲でデビューを果たした彼等の歌は、まるで止まることを知らない、まさに挑戦を掲げるAAAにピッタリの歌。
ずっと止まったままの私には、この歌はきっと歌えなかっただろう。
「どうかしたの?」
「ううん、何でもないよ。でも、そろそろ行かないと」
陽斗も待ってる。
そそくさと立ち上がって、扉に手をかけた。
「また来るね………………母さん」
胸が苦しくて、逃げるように病室を離れたのだった。
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miyu - はじめまして!このお話号泣してしまいました(笑)大切な人と自分の夢…どちらを選ぶかって辛い決断ですよね。最後のほう号泣でティッシュひと箱なくなりました(笑)これから続編を見たいと思います! (2020年9月24日 20時) (レス) id: 522229740f (このIDを非表示/違反報告)
夏目海(プロフ) - はづこ。さん» ありがとうございます!できれば今週中には続編を作りたいと思っておりますので、今暫くお待ちいただければ幸いですm(__)m (2018年2月14日 23時) (レス) id: fc74eeea72 (このIDを非表示/違反報告)
はづこ。(プロフ) - とても楽しみにしてます!頑張ってください!(*⌒▽⌒*) (2018年2月14日 15時) (レス) id: 8b66f080ab (このIDを非表示/違反報告)
夏目海(プロフ) - あかりんごさん» ありがとうございます!ヒロインとAAAの物語はまだまだ長くなる予定なのでお付き合い頂けると幸いです!今夜もこの後更新予定ですので、暫しお待ちくださいm(__)m (2018年2月5日 17時) (レス) id: fc74eeea72 (このIDを非表示/違反報告)
あかりんご(プロフ) - 毎回更新を楽しみにしてます!続きが気になる終わり方…!!!!!これからひろいんとAAAがどうなっていくのか楽しみです!応援しています! (2018年2月4日 21時) (レス) id: b2fbf946ee (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:海 | 作成日時:2018年1月5日 13時