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予約していた個室の焼肉屋で、酔いの回ってきた俺たちはダラダラとこれまでの活動について話していた。運ばれてきたタンを網に広げ、柚さんの話に耳を傾ける。


「めいちゃんは本当に凄いですよ。同い年とは思えないぐらいしっかりしてるし、ファン想いだし、歌も上手いし」


何度目か分からない賞賛に、何度目か分からない返答をする。


「だ〜か〜ら〜、それは柚さんにも言えることなんだって!何度も同じこと言わせないでくださいよ、も〜」

「チューリングラブあげてからフォロワー増えたんだよね」

「マジすか?追いこされちゃう」

「まだまだ、私じゃめいちゃんの足元にも及ばないよ」


残っていたワインを一気に飲み干し、突然笑顔を消した柚さんから目が離せない。俺が踏み込んで良いのか、微妙なラインの前に立たされている感覚。


「柚さん、」

「めいちゃん、お肉焦げちゃうよ」

「やべ、本当だ」


焦げの少ない肉を柚さんのお皿に移し終わる頃には、さっきまでのラインから引き離されていた。目の前で美味しそうにタンを頬張る彼女から、先程までの哀愁は感じられない。自分の気にしすぎだったのかもしれない、と感じた違和感を片面の焦げたタンと一緒に胃へ押しやる。


「そう言えば、ツアーお疲れ様」

「あ、ありがとうございます」


グラスにワインを注ぎ直し、俺の方へそれを傾ける柚さんに応えるように自分のグラスをぶつける。


「本当にかっこよかった。めちゃめちゃモチベーションも上がりましたし」

「柚さんもライブしてくださいよ〜、予定とかあるんすか?」

「ん〜、年末に向けて話し合いはしてる感じかな」

「え!まじで!?絶対呼んでください…、てか、呼ばれなくても行きますね」

「あはは、決定したら一番に呼びますね」


眉を下げて笑う柚さんに、待ち合わせの時に感じた苦しさが(よみがえ)る。それを掻き消すように、ワインを体に流し込む。


「…めいちゃんは、アンチとか、気にしますか?」

「え?」


突然の話題に惚けた返事しかできなかった。


「いや、よくエゴサするって言ってたじゃん?なら、たまにはそういう意見も見ることあるかな〜って」

「…まあ、たまに見ますけど」

「私との事で、あ〜、ごめん酔ってきた。お手洗い行ってくるね」


トイレから戻ってきた柚さんからは、もう一度同じ話題が振られることはなかった。









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作者名:鈴木 | 作成日時:2022年3月7日 10時

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