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“今度、ご飯でも行きませんか?”
自分にしては、随分大胆な誘いだったと思う。こんな短い文面に10分は悩んだし、送信ボタンを押す指は微かに震えていた気もする。接触イベントに来てくれるファンの緊張が今なら十二分に理解できた。
律儀な彼女から数分後にやってきた返信、“ぜひ!来週は夜であればいつでも暇です!”。たった一行、されど一行。俺の心臓はライブ前よりも暴れ回って、それにリンクするようにソファで寝っ転がっていた体も喜びを全身で表すかのように激しく動いた。
すぐに返信するのも気持ち悪いかなと考え少しの間通知だけを眺めていたものの、2分も経たずに我慢できず日付と好き嫌いの確認のメッセージを送信していた。彼女からもすぐに返信が返ってきた。
「やったよ〜」
興奮する俺の足元に擦り寄ってきた猫を抱き抱え、自分の中だけでは収まりきらない喜びを愛猫にお裾分けしておいた。
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初めて連絡先を交換した日、肉チョモにゲストとして出演してもらった日、そして今日。実際に会うのはもう3度目だし、ディスコードで話すことも少なくなかったのに、俺は信じられないくらい緊張していた。待ち合わせた時間より15分もはやく待ち合わせ場所に到着してしまう始末だ。自分でも笑える、Geroさんやnqrseに報告したらもっと笑われる。
エゴサでもするかと携帯を開いて5分ほど経った頃に、俺に近づく足音に顔を上げると、走ってきたのか息の上がった柚さんが開口一番「ごめん」と謝った。
「待った?」
「いや、全然!柚さんもはやいよ」
「本当だ。あはは、10分前集合だね」
「楽しみだったからかも」と付け足した柚さんの笑顔に、キュッと胸が締め付けられるような感覚がした。いや、だめだ、俺が彼女に抱くものは“憧れ”や“尊敬”であって、勘違いするなと脳内で自分を鎮める。
「店予約してあるんで、行きましょう」
「焼肉だっけ?楽しみ〜!夜ご飯のためにお昼抜いてきました」
「俺も食べてないんで腹ペコっすよ」
「めいちゃんはお昼普通に食べても焼肉いけそうだね」
隣を歩く柚さんが、先日投稿された肉チョモの大食い企画の感想を語り出した。たくさん食べれることを褒めてくれているようだが、俺としては恥ずかしい部分を見られているようでなんだか落ち着かなかった。
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作者名:鈴木 | 作成日時:2022年3月7日 10時