エスケイプ

> ページ43

.


みつはテーブルの上に枝豆を置くと改めて座り直し、ひとつひとつ指差しながら説明をしてくれる。


「スペアリブは主に俺用、カレーは最初米炊こうとしたんだけど、この間 仕事一緒だった時、よこーさん夏バテ気味って言ってたじゃん？ だからうどんに変えたの。食欲あるようなら、２杯目はカレーうどんもできるよ」


意外と出汁で割ったグリーンカレーうどん、旨いんだからな〜。


自分の好きな物を語る時の みつは、その気持ちを溢れんばかりにして、キラキラと目を輝かせた子供のように無邪気だ。
昔からそういう みつを見ているのが好きだった。




「食欲、あんまない？」

ビールは注がれたまま、出された枝豆にも手をつけない俺を心配そうに みつが覗き込む。



「……みっちゃんはずるいな」

「へ？ なんで？」


自分が大変な時期に俺の体調気遣うとか、こうやって会いにきてくれたりとか、ずるい。しかも俺がこんなに弱ってるタイミングでなんて……。

せっかく作ってくれたご飯、ほっぽって抱きしめたくなるじゃん。


……そんな行儀悪いことはしないけど！



「なんでもない！ 美味しそう！いただきます！」


泡の消えかけたビールを一気に飲み干した。

急になんだよー、と驚いたように笑って、みつが空いたグラスにビールを注いでくれた。俺も みつのグラスに注ぎ返す。
もう一度、今度は俺もきちんとグラスを持ち上げて、おつかれさま、と笑い合った。



＊


ふたりで夕食の片付けをした後ソファーでくつろいでいたら、みつの頭がゆらゆら揺れ始めた。それでもしばらく会話を続けていたが限界に達したのか、こてんっともたれかかってくる。

やっぱり疲れてるよな。
本格的に寝始める前に風呂に入らせなきゃと、うとうとしている みつの頬を軽く叩き「お湯張ってくるから」と立ち上がった。
ん〜 わかったぁ、と眠そうな声が追いかけてくる。


最近シャワーで済ませていたから軽く湯船を洗い、リネン類の用意をしてリビングに戻ると、みつの姿が見当たらない。

寝室にもキッチンにもいなくて、視線を落としたシンクにさっきまで みつが使っていたマグカップが置いてある。


カタン、と玄関の方から音が聞こえて、慌てて玄関につながるドアを開けると、ちょうど みつが上がり框に腰を下ろし靴を履いているところだった。


.

>→←>

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す