【ONEPIECE】ごめん、離せない。 (ページ26)

今日:30 hit、昨日:92 hit、合計:3,604 hit

▷ 出航の時５ページ26

軽い足取りでとある茂みの横を通り過ぎようとしたその時、ガサガサっと茂みが激しく揺れた。思わず足を止めて硬直してしまう。親切なおじさんが言っていた熊に気をつけろという言葉が脳裏を過ぎる。私は、丸腰だ。武器なんて一つも持っていない。もし、こんなところで熊なんて出てきてしまったら、私はきっと、ルフィと海に出る前に＿＿＿＿死んでしまう。

熊に襲われ無惨にも四肢をもがれ、臓器まで食い尽くされてしまうという事件を思い出した。四肢をもがれるだなんて痛みを想像するだけで全身が粟立つ。ガサガサと茂みの向こうから確実に近づいてきている存在を警戒しながら少しずつ距離をとる。そのとき、後ろをろくに見ずに後退りしていたため、足元に転がっていた小枝の存在に気づかず、そのままバキッ！と踏んでしまった。

しまった、と思った時には既に遅し。茂みの向こうに身を潜めていた生物が小枝を踏み締めた音とほぼ同時に茂みから飛び出した。そこには黒い毛皮に覆われた巨体が＿＿ではなく。体毛が薄茶色の子兎が3匹、慌ただしい様子で颯爽と駆け出してどこかへいってしまった。

「もお〜〜……驚かさないでよ、熊が出たのかとばかり＿＿＿＿」

＿＿ズシン。気分を晴れさせるように声を上げた最中。子兎3匹が現れた茂みの向こうから明らかに重量感のある生き物がこちらに向かって迫ってくる音が聞こえた。聞こえて、しまった。思考を回すよりも先に茂みをかき分けるようにして現れた黒い巨体。地を這うような低い威嚇音。

私が一番会いたくなかった存在＿＿3m級の大熊と視線があってしまう。そして本能的に察してしまった。……私、死んだな、と。きっと、さっきの子兎たちは熊の捕食対象から逃れるために颯爽といなくなってしまったのだろう。つまり、今ここにいるメンバーの中で熊の餌となりうる人物はただ1人、私だけ。

熊の鋭い鉤爪が私めがけて振り上げられると、太陽の光に反射してキラリと光る。避けなければいけないの、恐怖で体が動かなかった。ただ、頭の中を巡っていたのは、昔ルフィが何度も言ってきた「Aは絶対ェにおれが守る！」の言葉。走馬灯のように駆け巡ってきたかつての記憶に縋るように、私は涙が混じった声で叫んでいた。

「助けてっ…！！ルフィーーー！！！」

咄嗟に目を閉じて襲いかかるであろう痛みに備えるが、鉤爪に捕らわれる痛みとは全く違った衝撃が私を襲った。

それはまるで、誰かに肩を抱かれた時のような、そんな安心感だった。