【コラボ】混ぜても危険物販売取扱所【短編集】 (ページ23)

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赤いヒールの女＊trco ページ23

ある日の夜中の仕事帰り。
俺はいつものように鍵を使って玄関を開けようした、が、既に鍵は解かれていた。不気味に思って恐る恐るドアを引くとそれは素直に開く。

朝出る前に戸締り確認したんだけどな、と思い出しながら中に入るとそこには見知らぬ赤いヒールの靴が揃えて置いてあった。男の俺じゃ履く機会が滅多に無いような、レディース物だ。

誰か来る予定があったか確認しても何も無い。突然訪問してくるような親戚や知り合いは俺の周りには居ない。てかこの鍵を俺以外持ってる訳が無いから来てたとしても、普通は無理だ。

視線の先にあるドアの隙間から朝消した筈のリビングの電気の光が漏れていて、その奥にはぼんやりと人影が在った。

この得体の知れない先に進まなきゃいけないのかと思うと足が竦む。自分の家なのに何でこんな恐怖体験しなきゃいけないんだよ。相手が人間なら話し合いとかで何とか出来ないかな、意を決してドアを開いた。

「おかえりなさぁい♪」
「………」

俺の椅子に堂々と座っている紺色のワンピースを身に纏った黒髪ロングで色白の女が、俺の方を振り向いて、ニィと口角を上げた。

「ご飯にする？お風呂にする？それとも」
「えっと、あの、」
「えぇ～！折角お出迎えしてあげたのに無視？」
「すみません。只今戻りました。……じゃなくて！貴女は、その、帰る家とか間違えてませんか？」
「ううん。合ってるよ」
「え、」
「その証拠にあなたは今帰ってきたでしょ？」
「はい…」
「わたしはずっと待ってたの！タラチオくん、あなたの事を！」

知らない人が俺を見てタラチオと呼ぶ事には抵抗はない、っていうか慣れたというか。イベントとか行ってもそうだし、『タラチオさんですよね？』って話しかけられる事も度々ある。

でも、この感覚は初めてだった。名前を呼ばれて全身が凍り付いて、後退りしそうになったのは。

「洋服が結構溜まってたから洗って畳んでタンスに詰めといたし、部屋とお風呂の掃除もしといたし、後カレンダーの月もう変わるから捲っといたよ！」
「うわ、」
「わたし偉いでしょう？褒めて！」

自信満々の女は満面の笑みを見せる。いや、褒めるも何も、勝手に俺の物を弄らないでくれ。

「貴女の目的は何ですか」
「役に立ちたいの。あなたの事がすきだから」
「本当に俺の役に立ちたいのなら、今すぐ帰ってくれませんか」
「そっか、そうだよね…。じゃあまた来るね。タラチオくん♡」

そう言うと、女は俺の家を後にした。