赤緑短編集

酔っぱらいは無敵とよく言ったもので-2 ページ34

「おん、何も。」
「...何もって、例えば？」
「例えばとかちゃうよ。全部。」
「...寝る時の腕枕も...?」
あ、寝る時腕枕するんや〜とニヤついて居たら睨まれる。咄嗟に部屋の端に固まって聞いていませんスタンスを取りつつ耳は完全に2人へ。
「せんよ。」
「っ...!!ちゅー、ちゅーは...?」
「当たり前やん。してやらん、朝も帰宅後も寝る前も。」
泣くのを我慢しながら聞く神ちゃんは可愛いがそんなことより発せられた言葉に興味が湧く。
1日3回キスしとるんか、おアツいことでなんて内心冷やかしていると神ちゃんの悲痛な泣き叫ぶ声がカラオケボックス内に響く。
「ヤやぁ！！ちゅーせんの嫌や！！！今日も帰ってからと寝る前もすんねん！！！！」
「今帰ったらやれるで。」
「いま...?」
「おん、今皆とおやすみって別れたら出来る。」
「...腕枕も...?」
「出来る。今帰ったらな。」
「......かえる。」
「うん。よし、帰ろ。みんなも帰るで。」
「あ、はい。」
グズグズと未だすすり泣く神ちゃんの腕をしっかりと掴んで部屋から出るしげ。
2人のやり取りに赤面しながら呆気に取られる5人。返答で出た言葉はなんとも情けないもので。
支払い中も"今帰る"というワードに引っ張られ「はよ帰ろ」としげの腕を引っ張る神ちゃんの可愛さに免じて2人分は俺の奢り。「すまん。ありがと。ほら神ちゃんも。」とタクシーに乗り込む(半分神ちゃんに引っ張られている)しげと「おやすみぃ。」とタクシーの座席に座ったことでまた眠気に襲われている神ちゃんに挨拶をしてカラオケ店から出る。
「もんち凄かったな。」
「あんな神ちゃん見たの初めてや！可愛かった！！」
「家やとしげちゃんにちゃんと甘えれてるんやろなぁ〜。いい関係や。」
「アイツ神ちゃんにはウザ絡みせんし、プライベートだとちゃんと怒れるし甘やかせるし格好よくなるってめちゃくちゃ良い彼氏やん。俺や淳太にもちょっとくらいその優しさわけろや。」
各々の感想を聞きながら(流星のコメントに関しては激しく相槌を打ちながら)タクシーを待つ。
通知音がなったのでスマホを見ると、ご丁寧に神ちゃんがメンバーに居ない6人のグループメールをわざわざ作って送ってきたのは彼氏様。
『きっと神ちゃん今日のこと忘れてるから言わないように。そしてやり取りは忘れるように。』
態々警告するあたりホンマ神ちゃんファーストやなぁと甘々っぷりを見せつけられ胸焼けをおこしそうになる。
「帰るか...」と呟いた声は街の喧騒に溶けた。

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