50話 ページ27
、
Aはパッと顔を上げる。
そして信じられないという風に俺の顔をじっと見て固まる。
「…なに？キス待ち？」
「っ！？ち、ちゃう！！…え、ほんま、なん？」
「俺が嘘言うと思うか」
「思わん…」
フードを被って顔を隠す仕草でさえ可愛く見える。
惚れた弱みって怖えなぁ…
そう思ってると向かい合わせで座って、俺の手を握ってくる。
相変わらず女みたいな手。
「せんせ、俺、先生のこと好きや。でも違う…
…俺ファットさんが好きやねん。
だ、だから、ごめ、んね…」
「…何でお前が泣くんだよ」
ボロボロとその大きな目から涙が零れ落ちる。
頬を伝って落ちていくその涙を指で拭う。
「ちゃう、泣いてへん…」
「…っ、泣きてえのはこっちだボケ」
触れるだけのキスをした。
「…これくらい、許してくれや」
「う、ああ…うん、うん…ごめん…ごめんなあ…」
それでも零れ落ちる涙の量は増えるばかり。
「もう良いから泣くんじゃねえ。俺が泣かしたみたいだろーが」
ビシッと思いきりデコピンをした。
すると流石に痛かったのか次は悶え出す。
「いっ、てえええ…」
ずび、と鼻をすする。
「せんせ、ありがと」
泣き腫らした目で微笑まれる。
「ブッサイクな顔だな」
「あ、あのムードぶち壊…や、何でもないわ」
俺も笑った。
今日のことはこいつにとって忘れられない日になったんじゃないだろうか。
それでも良い。別に結ばれなくても覚えていてくれりゃ、十分だ。
きっと、この関係はこれからもあまり変わらないのだろう。
俺もそう願っている。
………
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作者名：花苑 x他1人 | 作成日時：2017年9月6日 16時
