心離れに終焉を（過去編） ページ7
仕方ない、仕方ない。
そうやって世の不条理と己に降りかかる理不尽を肯定し続けるのには、疲れてしまったんだ。(鶴丸side)
＊＊＊
『っどうして戦わない？！お前らの使命だろう？お前らの、存在意義だろう？！』
男が怒鳴り散らす。
血塗れの刀剣に跨りながら。
それは俺たちにとって何度目かの心離れだった。
息も絶え絶えに、やっとの思いで本丸に戻ってきたその刀剣は、戦わないのではなく戦えないのだと男に言葉を返す余裕もない。
ただ浅く呼吸を繰り返すのみである。
男からすれば、無意味な呼吸を。
状況は緊迫していた。
新たな合戦場が開かれ、成績優秀な本丸は次々と出陣し結果を残している。
けれど、緊迫していた。
新たに現れた強力な敵に？
ちがう。
いつまで経っても減らない歴史修正主義者に？
ちがう。
『他の奴らはとっくに結果を残しているのに……』
どうしてか思い通りに得られない承認と名声に。
見下す者達に追い抜かれる焦燥感に。
『ああ、あの演練の女も、あんな家族ごっこみたいな本丸で道具をダメにしているくせに、何故俺よりも結果を残している？』
あの女。
ああ、この前の演練で男の本丸経営の方針が間違っていると啖呵を切ってきた奴か。
しっかり自分の身は俺たちの同位体に守らせて、言いたいことだけ言って満足げにいなくなったあの女か。
『お前らがちゃんと戦わないからだ！！』
何奴も此奴も、人間というのは優越感を感じたくて堪らないらしい。
男が以前より老けた顔を怒りで震わせながら、己が跨る刀剣の襟を乱暴に掴もうとする。
『主、もうやめてよ。』
安定、折れちゃうよ。またレベル１から育て直すなんて、そんなの合理的じゃないでしょ？
素っ気ない態度で、男の初期刀が言う。
必死に相棒を守ろうと。けれど決して男の機嫌を損ねることのないようにと。
薄く笑って、初期刀は男の肩に触れた。
ああ、失敗だ。
『なんだ、その目は。』
失敗。この男の前では、初期刀だろうとレアだろうと、なんだって等しく物なのだ。
だから、少しでもボロを出した時点で、失敗。
『ただの鉄の塊のくせに、何故そんな目をしているんだ？』
狂気じみた男の暗い視線に、初期刀の口角がひくりと引き攣る。
お前は情を隠せる刀じゃないんだから、口を出すべきではなかったのに。
出すべきだったのは、俺みたいな冷たい刀だったのに。
男の利益しか求めない指が、加州の白い頬に触れる。最後に見えた加州の口元は、何故か笑んでいた。
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作者名：伊織（神様卒業） | 作成日時：2019年4月28日 23時
