今日は新メニューを入れてみたよ、（過去編） ページ5
幸せがなかったといえば、嘘になる。(鶴丸side)
俺を顕現したあの男は、確かに最初から合理主義だった。どこぞのエリート様でいるらしく、何度か食事の席で気持ち良さげに自慢をしていた。
ある日の夕餉で男は吐き捨てるように言った。
『だって、お前たちは結局は物だろう？』
正しくは物に宿る付喪神なのだが、まあ遠く外れているわけではないのでそのときは肯定した。
『そう、物なんだ。人に使われなければ無意味で、壊れることが当たり前な、物なんだ。』
形あるものいつかは壊れる、ってね。
得意げに男は笑う。
こびり付いた固定概念のような目元のしわが深くなる。
『何かを成し遂げるためには犠牲は付き物で、俺たち審神者に求められるのは、いかにその犠牲を少なく事を成し遂げられるか。』
ととんとん、
男の骨ばった指が、リズム良くまだ片付けられていない食後の食器の横を叩く。
今夜初めて出たおかずの一品が丸々残されているのを見て、向かいに座る歌仙の眉がピンと跳ねた。
そういう男なのだから仕方ない。
自分が既に知っている味以外は受け入れたがらない男なのだから、仕方がない。
『だが安心してくれ。俺は優秀だ。他の奴らよりずっと。』
安心しろと無責任に言われ、誰もが無感動に微笑んだ。ヒーローを見つめるような視線は一つもない。
『そして俺がお前らに求めることはただ一つ。戦え。』
それだけで十分だ。お前らは戦うだけでいいんだ、物なんだから。心なんてないんだから。無駄なものをこれ以上抱えても、動きずらくなるだけじゃないか。
そう一息に言って酒を煽った男を見て、俺は心から残念に思った。
驚きを求め日々の退屈を紛らわせようとする俺の心。現存しない自分の本体の運命を受け入れる刀の心。元主を懐かしむ心。歴史を守るという使命感、正義感に濡れる心。
それら全てを一息に否定されて、本当に残念に思った。戦争なんて、分かり合えないもの同士の争いだ。受け入れられないものがあって、大事なものの為刃を振るう。命を奪う。
そこに心がないのなら、それはただの殺戮だ。
確かにそこに幸せはあった。
旧知の刀と再会出来たこと。
仲間というものができたこと。
確かにそこに幸せはあった。
確かにそこに幸せはあった。
けれどその幸せの中に、あの男の姿は見当たらなかった。
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作者名：伊織（神様卒業） | 作成日時：2019年4月28日 23時
