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近くには小さな丘や古びた鳥居を持つ神社があって二人で探索している間に、あっという間に日が傾き始めていた。お昼ご飯とかおみくじとか全部元太くんがお金を払ってくれた。

「今日、奢ってもらってばっかでごめんね」

わたしが申し訳なさそうにそう切り出せば元太くんはちょっと悲しそうな顔して首を横に振る。

「ううん 俺こそA連れ回すようなことしちゃってごめん」

「いいの、楽しかったから」

そっか、元太くんの嬉しそうに上がった声は何にも残らずに消えた。沈黙がふたりの隙間を埋める。

今日最後の目的地は此処にくるまでに見えた青い海。俯いた視界に映るいつの間にか揃い始めた歩幅も、明日になればきっとバラバラなのだろうか。なんとなくそれが嫌で、忘れないようにしなくちゃいけないな、なんて思う。

海の匂いが近づいてくる。ザァと波が弾けて潰れる音も聞こえてきて顔を上げたら、海が現れた。
湿った潮風がきもちよくて大きく息を吸う。懐かしくて温かくて、しょっぱい気持ちが渦巻いてなんだか無性に泣きたくなる。別に海にそこまで縁があるわけじゃないのに、すごく不思議だ。

急すぎる階段に気をつけて1段ずつ降りていく。最後の1段を踏んだ時、砂がローファーの踵から足に絡み付く感覚がして気持ち悪かった。入り込んでくる砂を取り除くのは面倒くさくて、靴下と一緒にローファーを脱ぎ捨てる。その1連の動作を見ていた元太くんは拍子抜けしたような表情していた。
「元太くん、どうかした?」

「・・いや、意外とそういうの気にしないんだなって思って」

「気にしてらんないよ 足だけでも海入りたいなあ」

「よし! じゃあ入るかぁ」

そういう言う元太くんも赤いスニーカーを脱ぎ捨てて、わたしをもう一度見た。口角が上がって白い歯が覗く企みを持った笑顔。待って、この表情前もどこかで見たような

「早くいくよ!」

「ちょっ、 げんたく、」


今日何度目かの光景、引っ張られて揺れる景色に慣れつつあったけど、ひとつだけ慣れないことがある。彼に触れられること、たったそれだけのことがわたしの心を掻き乱した。たまに振り返ってわたしだけに見せてくれる笑顔も全部、わたしの心臓を掴んで離してくれなかった。


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(プロフ) - mm.さん» ありがとうございます。楽しんでいただけてとってもうれしいです* (2021年4月29日 18時) (レス) id: 2908e82d36 (このIDを非表示/違反報告)
mm. - 久しぶりにこころが震えました。他の作品とはまた違って私が求めていた世界観。最高です。続き楽しみにしてます。 (2021年2月25日 13時) (レス) id: 44e01e6971 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:mam | 作成日時:2021年1月26日 20時

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