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「・・・A」
「あ、ごめんなさい、先輩 わたし、」
呆然とした表情の先輩に慌てて何度も謝罪を繰り返す。まさか先輩に恋心があったにせよ、すべてをすっ飛ばしてキスしてしまうなんてとんだ馬鹿で、どうしよう、頭の中が真っ白になってパニックになる。どうしよう、何も考えられない
「A」
「はい、っ」
先輩の穏やかな声に視線を向ければ、唇にやわらかい感触。至近距離に先輩の顔。離れた隙間に残るミルクティーの匂い。たしかに目と目は合っているはずなのに、わたしのことは見ていない。どこか違う人を思い出して重ね合わせてる、そんな風に遠い目をしてるから、悔しくて心の底から落胆するのと同時に怒りや悲しみ、苦しみ、言葉にできるだけの感情が沸騰して溢れ出す。
わたしの顔は、今どんな顔してるんだろう。
そんな気分も長い睫毛がゆらゆら揺れるのをみて、縁日のビニールプールに泳ぐ金魚みたいで綺麗だと思うわたしはすこぶる呑気なやつだと思う。全部わたしに魅せてほしくなった。先輩のすべてを手にしたくなった。
「せんぱい 、わたし 先輩のこと」
「ありがとう」
「でも、」
「・・・ありがとう」
今度はわたしが泣く番で、頬にすべり落ちる涙が熱くなった頬を冷やした。次々に落ちていくのに拭うこともせずただ先輩を瞳に映した。唇に微かに残るミルクティーの味をもう一度確かめたいのに口から嘆願の言葉が出るはずもなくて、ただ先輩を見つめる。瞬く睫毛の中には濁りの無い目があった。
琥珀色の宝石が嵌め込まれてる、そんな瞳も撫でてしまいたくなるほど愛おしかった。
「ごめんな」
きっとこの世の何よりも一番悲しい響きをしている。謝らないで、ああ、こんな言葉ももう言えない。言えないほど胸が苦しくて口から零れるのは空を切る息の音だけ。もっと早くこのことに気付いてたら結末は変わってただろうか。わたしは多くのことを望みすぎたんだろうか。
せめて、わたしの手を掴むその手で涙を拭ってほしかったのに
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‥(プロフ) - mm.さん» ありがとうございます。楽しんでいただけてとってもうれしいです* (2021年4月29日 18時) (レス) id: 2908e82d36 (このIDを非表示/違反報告)
mm. - 久しぶりにこころが震えました。他の作品とはまた違って私が求めていた世界観。最高です。続き楽しみにしてます。 (2021年2月25日 13時) (レス) id: 44e01e6971 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:mam | 作成日時:2021年1月26日 20時