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一般客が入った三日間の文化祭は大成功に終わった。最優秀賞は先輩のクラスで、先輩はMVPに選ばれていた。そうだろうな、と心のなかで呟いて見上げるのは、全校生徒が集まる体育館のステージで表彰を受けている先輩。照れくさそうに賞状と記念品を貰っている姿は飾らなくてすきで、あの日のぶつかった視線を思い出す。

『さよなら』

力なく笑った、いや違う。何か大事なものを諦めたような手放すようなそんな憐れみを持った微笑み。


これから起こる何かを示唆しているようで、嫌な予感がしたんだ。


いつも通りになった日々の始まり、美術室の扉を開けようとすれば先輩は珍しくキャンバスの前に座っていた。 先輩が絵を描くイメージがなかったから新鮮で少し遠くから眺めてみる。よく見てみれば絵を描いている訳ではないみたい。キャンバスを指先で撫でているだけ。

横顔から感じ取れてしまう哀愁に胸がかき乱される。思わず扉に手をかけて開けた。先輩は驚いた顔をしてわたしを見つめる。

「なんだ、Aか びっくりしたわ!」

「せんぱい」

ズカズカと目を丸くする先輩に近付いて、頬を挟んで強制的に視界を固定する。ひんやりとしたピアスの感触が掌に当たってまたもう一度固定し直した。


「なんで、そんな顔するんですか」

「・・・どんな顔だよ」

「わかってるくせに」


わたしの手に先輩の手が重なってばりっと剥がされる。滲み出した視界が耐えられなくてしゃがみこんで先輩の膝に顔を埋めた。片手だけ握られた手の温もりが体内に流れてきて余計に苦しくて、強く握り返してしまう。

「俺が美術部に入った理由話したっけ」

「してないです」

「そっか」

握られてない手がわたしの髪を耳にかける。耳の硬い所にわずかに触れてそこだけがじりじりと熱を持つ。

「元々美術部って三年生が三人だったんだよ

俺と友達と俺が好きだった子と、三人」

「その子がミルクティーがすきでさ、いつも、
いっつも買って飲んでたってわけ」



もう飲まないって決めてたんだけどな、って憐れを含んだ笑みの音が含まれて顔を上げた。声の揺らぎですべてを察する。



先輩は泣いていた。
詰まる息を必死に押し殺して。

ひとつ頬を流れる涙に張り裂けそうになる胸を抑えて思わずわたしは、歪んだ唇に顔を寄せた。



愛情のキスじゃない
慰めと労りのキスだった。



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(プロフ) - mm.さん» ありがとうございます。楽しんでいただけてとってもうれしいです* (2021年4月29日 18時) (レス) id: 2908e82d36 (このIDを非表示/違反報告)
mm. - 久しぶりにこころが震えました。他の作品とはまた違って私が求めていた世界観。最高です。続き楽しみにしてます。 (2021年2月25日 13時) (レス) id: 44e01e6971 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:mam | 作成日時:2021年1月26日 20時

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