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秋と宮近海斗 ページ11

autumN



わたしは伸びきったクリーム色のカーディガンの袖をつかみ直す。衣替えが終わったと思ったら待っていたかのように冷たい風が吹きはじめて、あっという間に夏から冬に入れ替わりそうだ。暑い日と肌寒い日が交互にくるこの期間を秋というのだろうか。わたしはこの季節がすきで、深い緑が淡く色が変わり、赤や黄色に色付く木々は見てるだけで癒されるから。

放課後の学校は賑やかで、部活の音、教室で談笑する音、誰かがピアノを奏でる音、その他諸々。スキップしたくなる衝動を抑えて新しく建設されたプレハブ棟へ移動する。新しい校舎は不思議な匂いがする。誘われるような不思議で意外と嫌いじゃない、そんな匂いが鼻をくすぐる。一階一番奥の教室が、わたしの居場所。
扉を開けて、冷えた身体が温もりに触れる。

「こんにちは」

「お、A」

片手を上げて迎え入れてくれるのは、部長の宮近先輩。密かに想いを抱いてる、やさしくてかっこいい先輩。今日もミルクティーを片手にスマホでゲームをしていた。って、そのミルクティーは

「えっ、先輩そのミルクティー!」

「ん?自販機の」

「それ昨日なかったんですよ!いつ買いました?」

「えー、さっき」

「え、本当ですか?それホントですね?」

わたしは一度入った教室から一目散に飛び出す。革の鞄を投げ捨てて、ばき、変な音。多分ポーチのなかのファンデーションあたりが砕けただろうな。気にせず、頬をきるのは油絵具とかアクリル絵の具の匂いとかがたっぷり染み込んだぬるい風。

わたしはあったかいミルクティーがすきだった。甘ったるくて喉に絡む、そんな自販機のぬるいミルクティーに、一口飲んだ時にときめいたから。ずっと飲みたいと思ってたのに、人気だからいつ行ってもなくて。だから、わたしは走る。
きっと先輩よりも、ミルクティーがすきだ。

先輩のニヤついた顔なんか、見えない。


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(プロフ) - mm.さん» ありがとうございます。楽しんでいただけてとってもうれしいです* (2021年4月29日 18時) (レス) id: 2908e82d36 (このIDを非表示/違反報告)
mm. - 久しぶりにこころが震えました。他の作品とはまた違って私が求めていた世界観。最高です。続き楽しみにしてます。 (2021年2月25日 13時) (レス) id: 44e01e6971 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:mam | 作成日時:2021年1月26日 20時

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