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□ 過去
出身地方：関西の田舎の集落
彼は関西のとある山奥にある文明の進んでいないような閉鎖的な集落で生まれ育った。地域色が強く、近所の人や親戚なんかとの関係が密接なかなりの田舎町。交通の便は悪く、発達した現在の電子機器も最低限しか出回っていないような閉鎖的で非近代的な集落。
そんな田舎の閉鎖的な集落には昔の悪習が未だに残り続けている。それは「不作の続いた年は山の神様に生贄を捧げること」らしい。生贄を捧げて山神様が喜ぶと、この集落に豊作の年が訪れる、らしい。そんなの信じるわけが無い、非科学的な風習であり、根拠も存在しない。勿論、纏里もそんな悪習なんて信じていなかった。
自分がその悪習の生贄になるまでは。
纏里の父は村の流行病で亡くなった。母は纏里の幼い頃に集落に嫌気が差し出ていったらしく、纏里はもう母の顔も覚えていない。父から聞いた母は気の強い綺麗な人だったらしい。自身が覚えていないのだから、そんなもの何の意味も持たないのだが。父が亡くなって数年は、作物の実りも悪く、流行りの病気のこともあり、集落全体がギスギスとした気持ちの悪い険悪な雰囲気に飲まれていた。
父を亡くすも、纏里に行くあてなどなく、幼いながらに遠い親族の老人たちや近所の人に手助けされながら生活してきた。幼い本人に家事能力は無いため、家の中はものが散乱し、黒く焦げた焼き魚が食卓に上がる生活ではあったが、本人的にはそれなりに暮らせていた。別に1人でもそれで満足していた。そんな中、その日暮らしの怠惰な生活が終わる。
「 豊作を祈念して、山の神様にお供えをするの 」目の前の老婆は纏里に向かって言った。何を言ってるんだろう。「幼い子供を生贄になんて…」目の前で泣いてる親戚のおばさんは、纏里の手首をぎゅっと強く強く掴む。痛い。幼いながらにそのときの空気は「身よりのない邪魔者のお前が生贄だ」と言っているようだった。口減らしというやつなのかなぁと纏里はぼんやり思っていた。
綺麗な金の装飾、高値で売れるであろう煌めく素材でできた衣装。周囲はランプを手に提げた集落の男性たちが取り囲んでいた。"嗚呼、もう逃げられない。これが運命なんだ"と纏里は悟った。
崖か何かに突き落とされたりするものかと思えば、実際はなぜか山の中のお社にぽつんと置いていかれた。何故？纏里は村人達が去ってその意味を知る。
神様は人の姿をしていた。
纏里の姿を見るなり、人間と同じような形のそれは笑った。
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作者名：兎依 | 作成日時：2022年11月2日 22時
