波打ち際の外伝【赤】 (ページ6)

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「お母さーん！お風呂上がったでー」

リビングで横になって
テレビを見る母に呼びかける。

母「はいはい、ありがとう」

「私もう上がっとくから」

母「はーい…あ、そうや。大ちゃんとこのお母さんが昼ぶどう持ってきてくれたから、食べるんやったら食べとき」

「大毅のおばちゃんがー！やった！後で食ーべよ」

お母さんとすれ違うようにして、
階段を上がり自分の部屋へ向かう。

今晩は、ぶどうより先にやる事があった。

『プルルルル…プルルル』

濱田『もしもーし』

2コール目の途中で気だるげな声に変わる。

「もしもし、私ですけど」

その気だるげな声も相まってか、
仕事なら仕方ないと分かっていても
少しだけ腹が立って、

思わず語尾を押し付けるような口調になった。

濱田『ごめんな、A、怒ってるん？』

「別に、怒ってな…」

濱田『でもな、しゃあないやん。仕事なんよ。ほんまに申し訳ないと思ってるけど、分かってほしいねん』

まだ言い終わってもないのに、
開き直ったような言い方。

「なんなんそれ？」

濱田『え…』

しまった。

言うつもりはなかったのに

考えるより先に思わず口に出してしまった。

「あ、ちが…わ、ないけど。ホンマは会いたかったよ、先生」

濱田『うん…』

「でも、喧嘩したないし。文句も言いたくないし。子どもって思われたくないし」

濱田『うん、ごめんな』

「お仕事、忙しいん？」

濱田『物理は3年もクラス担当あるから、夏休みもAたちん時みたいな感じやねん。あと、2学期は教育実習生も来るから準備があってな』

ほんの1年半前までそうやったけど、
自分の受験生の頃を思い出す。

たしかに、1年から3年までいろんなクラスの担当してた先生は、めちゃくちゃ忙しそうやった。

濱田『せやから、夏休みも全然会われへんかもしれん。ほんまにごめんな、A』

電話の向こうから
本当に申し訳なさそうな声が聞こえる。

「うん、私こそ、機嫌悪くしてごめんなさい。会える時に会ってくれたら嬉しいから。先生のお仕事応援してます」

寂しい思いはあるけど、
それを隠してちゃんといい彼女を演じた。

そのあといつもより長めに話して、
電話を切った。

「……っ」

電話を切った途端、

ブワッと湧き上がる寂しさ。

このまま1人じゃ眠れない気がして、

『プルルルル…』

気がつけばアイツの通話ボタンを押していた。