一匹の悪役の話 (ページ10)

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7話ページ10

それから数日間、リクルートに向けての特訓や勉強が始まった
慣れない体で人間を魅了するためのダンス、ポーズ、口上の研究、マナーなどなど
思っていた以上に学ばなきゃいけない事はあった
それに加えて、モルガナ様から定期的に送られてくる書類の数々
元々海でやっていた仕事だから内容は問題ないんだけど…リクルートの特訓と相まってとても疲れる

今日もいつものように特訓後、書類整理を行なっていた

『…あーぁ…つかれたぁ…』

ぎぃ、と私の体重によってきしむ椅子
静かな部屋ではそれだけの音でも充分響く
なんだか更に疲れが増した気がして、これは気分転換をしなければ、と席を立った

私の気分転換といえば、もう場所は決まっている

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『今日も綺麗だなぁ…』

私達が泊まっているホテルハイタワーのテラス
下でなにやら騒いでいる人間達がよく見下ろせる場所
魔法でここにいる姿は見えないよ、とミスターに教えてもらってから、気分転換にはここに来るようにしていた
風が気持ちいいのもあるけど、1番の理由は

『モルガナ様…』

海が見えるから
生まれ育った場所から離れる、というのは意外とストレスがたまるもので、そわそわとしていた私にミスターが教えてくれたんだ
ここからは海がよく見えるよ、って

見えるだけでだいぶ気持ちが楽になる
帰りたいけど、いい成果をあげるまで帰るわけにはいかない
モルガナ様、待っててくださいね

『…必ず最上の結果を…』

「…なんだ、先客か」

『！』

ふいに聞こえた声に振り向くと、
相変わらずの気だるそうな目がそこにあった
海と違うのは、彼がタコではないところ

『…エイトフット』

「お前も休憩か？ったく…お互い仕事に追われて大変だな」

エイトフットは持っていたペットボトルを私に投げ渡すと、もう一本のボトルの蓋を開け一口飲んだ
…何本持ってきてんのよ、変なやつ
貰ったものに罪はないから、ありがたくいただくことにした

「…お前、こっちの世界には慣れたんだな」

『ええ、おかげさまでね
リクルーターのみんなが優しくて良かったわ』

「あーいや、そっちじゃなくて…いや、まぁいいわ」

『？』

「明日からいよいよリクルートだとよ、まぁ…ほどほどに頑張ろうぜ」

アースラ様に怒られたくはないからな、と面倒そうにいう彼の横顔は、なにを考えているかあまり読めなくて
やっぱりどうにも好きにはなれなかった

明日はいよいよ、リクルート開始