一匹の悪役の話 (ページ13)

今日:1 hit、昨日:3 hit、合計:80,133 hit

10話ページ13

…

『…おなかすいた…』

きゅるるるる

間の抜けた自分の腹の音のせいで目が覚めた
あのまま寝てしまったらしい
結局エイトフットのせいで夕飯を食べ損ねた

何か食べなくちゃ、気になって二度寝もできない

寝ている間に泣いたのか、鏡にうつる自分の顔には涙の跡が見える
ため息をひとつ、顔を洗い、お腹になにか入れようと部屋を出た
廊下の時計は4時20分
まだ夜中だ

----------------

『…アップル？』

「マミか、こんな時間にどうした？」

広間の扉を開けてまず目に入ったのは、紅茶を飲むアップルポイズン
様になるその姿はどこか気品を感じる

『目が覚めたの、夕飯食べてなかったから何か食べようと思って…
アップルは？』

「私も先ほど目が覚めたとこだ
アップルティーでよければいれてやろう」

『ありがとう、お願い』

思えばアップルと2人で会話するのは初めてかもしれない
ジャックと喧嘩したり、スキャターやミスターと話したりしてるのはよく見かけるけど

アップルが入れてくれたアップルティーと、机の上にあるパウンドケーキを自分の席に置く
アップルはそれを見ると、わざわざ私の正面の席に座りなおした

『…どうしたの？』

「いや、お前とじっくり話したことはなかったな、とふと思ったんだ」

『…ふふっ』

「…なにがおかしい？」

『ごめんなさい、あなたを笑ったわけじゃなくて…
…私も、おなじこと考えてたの』

「………そうか
案外、気が合うのかもな」

ふわり、と彼の雰囲気が和らいだ気がした

あたたかく、優しい笑顔
あなた、そんな顔もするのね

『今日はお休みでしょう？』

「あぁ、だからアップルパイを焼こうと思っている」

『アップル…パイ？』

「林檎を使った焼き菓子だ
甘くて美味しいぞ、出来上がったら分けてやろう」

『いいの？嬉しい』

甘いものはとても好き
そう言って微笑むと、彼は少し驚いたような顔で私を見た

「…そんな顔もできるんだな」

『え？』

「いつも少し寂しそうな印象だった
今の笑顔はとてもいい

綺麗だ」

あまりにも自然に褒めてくるから、反応が少し遅れた
なんだか頬も熱くなって、恥ずかしくなって

『あなた…結構恥ずかしい台詞言うのね…』

照れ隠しの憎まれ口にも怒ることなく、アップルは私を見て微笑んだ