一匹の悪役の話 (ページ18)

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14話ページ18

「ハーデスもいたのか」

ちょうど会話が終わったタイミングで、扉からアップルが現れた
同時に、ふわりと香る甘い匂い
時計を見るとちょうど時刻は15時

アップルは得意げな表情で私たちに近付くと、皿に被せていた布を取った

ふわっ

甘い匂いが強くなる

『わぁ…！』

「出来立てだ、今切り分けてあげよう」

『ありがとう！』

切り分けたアップルパイを私とハーデスの前に置くと、彼は自分の分を持ち近くのソファに腰を下ろした

『いただきます！』

さくさくとしたパイを噛むと、林檎の甘い味が口いっぱいに広がる
上品な甘さというのだろうか、しつこくはなく、とても食べやすい
しかし癖になりそうな魅惑的な味だ

『アップル！すごく美味しい！』

「…あなたこんな特技があったのね」

「喜んでもらえたようでなによりだ」

パイを頬張る私たちの頭からは、すでに新聞の記事のことなど抜け落ちてしまった

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元々甘いものには目がない私は、あっという間にアップルパイを完食した
その様子を見て満足そうに微笑むアップルの顔は、ヴィランズとは思えない優しさがある

元々悪として生まれた彼らも、仲間というものには弱いのだろうか
いや、悪だからこそ、なのか

“愛”などを嫌うヴィランズが徒党を組むには、仲間意識が一番大事なのかもしれない

ふいに、ソファに座っていたアップルが私の横の席に座りなおす
不思議に思いながら彼を見ると、先程の笑顔とは違い、今度はいたずらをする前の子供のような笑みを浮かべた

「それで、エイトフットの頬は君がやったらしいな？」

『っえ、あ、え！？』

予想だにしない質問に目を丸くし、あたふたと慌てる私をアップルは楽しそうに見てくる
私の向かいにいるハーデスも、何事だとこちらを見つめた

「朝ここでエイトフットと会ってね、何があったかまでは教えてはくれなかったが」

『え、えと、あ、あれにはわけが…
頬を叩いたのはその、勢いあまって』

「マミがエイトフットに手をあげたの？」

『ちが、ハーデス、いや違くないんだけど、そうじゃなくて、えっと』

「深く聞く気はない、君ほどの優しい女性が頬を叩くなどよほどのことがあったのだろう
しかし１つだけ

もし許す気があるのなら、欲しかった謝罪をもらったらそこで許してやれ
惰性で怒りを長引かせると君まで苦しむぞ」

彼なりの優しさだろうか、言葉が胸にしみた

私は…エイトフットを許す気があるのだろうか？