本物には通じない ページ35
｢な……!?｣
起こったことは非常に単純。
キルアはただ鞭の軌道の癖を見切り、両手で掴み取って止めてみせた。
｢何ィィィィ!?｣
｢ワリーけど、常人じゃねーんだよ｣
掴んでしまえばもうリールベルトには手出しする手段がない……かに思えたが、リールベルトはもう一度不敵な笑みを浮かべ鞭の持ち手を少し弄り始めた。
｢……だが！ “
その瞬間、鞭を掴むキルアに凄まじい痛みの信号が襲い掛かる。
｢驚いたぞキルア！ 二本の鞭を見切ったのはお前で二人目！人間なら初めてだ！
だが｢肉を切らせて骨を絶つ｣の言葉通り怪我覚悟で鞭を受け止めた奴なら他にもいた！｣
高らかに勝ち誇り、リールベルトは己の武器を開示する。
｢そんな選手の為にはこれ！ 両方合わせ百万ボルトの電流をプレゼントッ！どんな大男も身動きさえ取れず気を失う！｣
そう、その鞭の本質は鞭を受け止めた者への追撃。
凄まじい電圧が敵に直接襲い掛かるのだ。
それをもろに受けたキルアの瞳が縮まり、目が大きく開かれる。
｢さぁ！鞭に逆らう馬鹿共は全てこの“
だが、その勝利宣言は途中で止められる。
理由は単純。
キルアが思い切り鞭を引き、鞭を握ったままのリールベルトごと上空へと投げ出したのだ。
空高く飛び上がっていく彼を見上げ、鞭の先を持ちながらキルアは呟く。
｢電流は効かない。拷問の訓練は一通り受けたからさ。
……でも、“効かない”ってのは“我慢できる”って意味でさ、痛いことに変わりないんだよね｣
普段通りの澄ました表情だが、その目と言葉から、明確に怒りを感じる。
と、ここで上空まで飛び上がっていたリールベルトの勢いが止まり、重力に引かれ一直線に落ちてくる。
｢た、頼む！ 受け止めてくれー!!｣
｢オーケー、安心して落ちてきな｣
必死の命乞いを受けたキルアは、すぐに腕を広げ受け止める体勢に入る。
……勿論、鞭は手に乗せたまま。
当然ながら電流は流れ続けている。
そんな中に落ちてきたらどうなるかなんて、わざわざここに書くまでもないこと。
結局、空に投げ出された時点で、空中どころか車椅子がなければ満足に動けないリールベルトの敗北は確定していたのだった。
情けない悲鳴が、会場に短く響いた。
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作者名：クロロフィル@深緑の指揮者 | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/ugt8ragist4/
作成日時：2023年1月22日 13時
