神話の裏の、木漏れ日に。 (ページ19)

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【進】海鮮丼と、パンケーキ【パンケーキアフター】ページ19

チリン。

｢どうもー｣
｢こんにちはー｣

来客を示す鈴が小さく鳴り、今日もまたいつもの面々が集ってくる。

｢何にしますか？｣
｢｢店長の気まぐれ海鮮丼で！｣｣
｢かしこまりました｣

普段通り、よく磨いだ包丁で刺身を切り分け、温かい酢飯に載せていく。

今朝は鮭が豊漁であったので、サーモン尽くしだ。

刺身、炙りサーモン、いくら、スモークサーモン、漬けサーモン……

鮭一つでも飽きさせぬよう、一つ一つにしっかりと個性を加えていく。

｢はい、海鮮丼二つです｣

手際よく運べば、普段通り笑みを向けてくれる。
すぐに幸せそうに頬張っていく二人の顔を眺め、少しして再び厨房に戻る。

そして……

｢っ、あれ？｣
｢この匂い……｣

気が付けば店内には甘い香りが広がっていた。

バターの香り、芳ばしい匂い……
これは、もしや。

｢はい、今日からのサービスです。
店主手作りパンケーキです｣

小皿に乗ったそれは、小さく形も不恰好なものの、それでも焦げはなくふわふわとしたパンケーキであった。

｢飛んだりしないので安心してください｣
｢……？｣
｢ハチミツにバター……あと醤油もありますが｣
｢醤油？パンケーキに？｣

ナチュラルにおかしい発言をした進だが、その疑問には反応せずに笑みを向ける。

｢……取り敢えずメープルシロップ二つ｣
｢はーい｣
｢お、お願いしまーす｣

少し動揺しつつも調味料を頼む二人。

何故か頼んでいない醤油も来たが流石に使うわけにはいかない。うん。

｢……にしても｣

胸のポケットに入ったそれを取り出せば、店内の優しい光が反射し、きらきらと煌めきながらゆっくり回る。

｢……不思議なこともあるものですね｣

先日見た夢のような、そんな空間で手に入れたパンケーキのキーホルダー。

身に付けていると何となく幸せが訪れてけれるような気がする。

ついでにいい匂いで嗅ぐと落ち着く。

｢パンケーキもいいものですね｣

どこか頭のネジが外れている進だが、その言葉は確実に誰かを想うものであったのは間違いない。

それが、『三橋進』という人間なのだから。