木漏れ日の差すアパートで (ページ36)

今日:24 hit、昨日:3 hit、合計:5,130 hit

苦労人と英雄とページ36

作業を一旦止め、休憩する東矢にマールドが話しかける。

｢…ところでさ｣
｢なんだ？｣
｢なぁ、僕らって本当に初対面か？｣

…東矢はその質問に心当たりがあるのか、少しの間言葉に詰まる。
苦笑いを浮かべ、何と言ってよいのかわからなくなっているようだ。

｢なんというか…初めて会った気がしないんだよな…｣
｢…まぁ、実際全くの初対面ではないからな｣
｢お、マジで？｣

どこで会ったかと聞き返すマールドだが、返ってきたのは暫しの沈黙。

｢…正直な、俺自身よくわかんねーんだわ。実際会ってるしガッツリ話してるし何なら戦ってさえいるんだが…｣
｢…でも僕とアンタは今まで話したことも会ったこともなかったと思うんだが｣
｢まぁ、そりゃ俺の話した“マールド”はお前じゃないからな｣

当然のように告げられたことに一瞬硬直するも、すぐに納得したように問い返す。

｢…別の世界線の僕、か｣
｢そうだな、正確には俺の前世の世界のマールドだ｣

東矢曰く、マールド以外にもこのアパートの住民の多くがいたとのこと。
彼らは魔王軍として戦っており、自身は勇者としてそれに挑んでいたこと。

そしてそれから死に、現在の世界に転生したらしい。

｢ほーん…なんとも奇妙な巡りあわせだな｣
｢だろ？まーでも、これも一つの縁ってやつだろ。世界線は違えど、またこうして会えたんだ｣
｢…そうだな｣
｢んじゃ…とりあえず仕事終わらせて…戦うか？｣
｢おう、乗った｣

そう約束しながら立ち上がり、再び道具を構える。

｢んじゃ、後でな｣
｢おう！｣

互いに短く言葉を交わし、そのままそれぞれの持ち場に戻る二人であった。