木漏れ日の差すアパートで

呼ぶは春風呼ばれるは友 ページ33

｢…さて、そろそろ、一巡するな…｣

しんしん雪の降る中、クロロは大樹を見上げ、感慨深く呟く。

その枝には葉っぱ一枚見えないが、かすかに小さな蕾が見え始めていた。

…このアパートにおいて、四季はやや偏っている。
主に春や秋が長く、その僅かな間に夏と冬が待っている。
そして、今は冬。
一応季節感を保つために、あるいは移りゆく自然を楽しむために、あえてそう設定している。

…この大樹は不思議なもので、わずかな期間降る雪の間は葉を一切なくし、それが止めばまた葉と花をつける。

…まだその光景はクロロ以外見たことがないが…

｢…あいつらにも、見せてやらなきゃな｣

自ら創り出した美しき景色を、頑張ってきた彼らへのお年玉として。
見せてやろうと思っている。

ふと、その目線を地上に向ければ、丁度起動した魔法陣の光がその目に映る。
そこから駆け出してきた二つの影が、そこに座り込む別の二つの人影目掛け走っていく。

ついでにやってきたまた別の影も走ってきて、途端に静かな雪景色が騒がしい日常へと引き戻されていく。

｢ねぇねぇねぇ！きみだれ!?わたしソーラ！あなたは!?｣
｢ボクはフールだよぉ〜｣
｢僕は巧！お前は？お前なんて言うんだ!?｣

三人の怒涛の質問攻めが、雪化粧の草原に響き渡る。

困惑した様子の影へと詰め寄る三つの影。

そして、それを眺める一人の少年。

｢…ははっ｣

少年は笑う。
騒がしくも微笑ましい彼らの日常に。

少年が微笑む。
新たな仲間と新たな年で起こることを想像しながら。

少年は歩みだす。
彼らの日々を、もっと近くで眺める為。
また、彼らの暴走を止める為。

少年は目を細める。
より鮮明に彼らの姿を視界に収める為。

少年は口を開く。

｢はいはい、そこらで質問タイムは終わりですよ。そろそろ雪も止むころでしょうし、雪かきしますよ！｣
｢えー…｣
｢んー、雪かき〜？やろぉ〜！｣
｢じゃあやる！｣
｢んじゃ、僕もやるか｣

三人にシャベルを渡せば、それを掲げながら勢いよく走り去っていく。
少女が転び、少年が手を差し伸べる。
笑い声が次第に遠く遠くへと動いていく。

｢…さて、あなたたちも、手伝ってもらいますよ？｣
｢へいへい、やるよ｣
｢あぁ、俺もやらせてもらうか｣

真っ白に染まったアパートの屋根に上り、その化粧を落としていく。
溶かし、落とし、剝がしていけば、次第に柔らかな木の目が現れてくる。

雪は止まり、また日が昇る。
いつもの暖かで柔らかいものではなく、遮るものもない綺麗な直射日光。

真っ赤に染まるその顔には、皆自然と笑顔が浮かんでいた。

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