可愛くなる魔法 (ページ38)

今日:15 hit、昨日:3 hit、合計:54,256 hit

、ページ38

.

自覚したのはAが事務所にきて3ヶ月ほど経った頃

僕の映画の撮影と舞台の稽古が重なって、少しだけ、いやかなり疲労が溜まっていた

事務所のソファで休んでいたらなんだか社員の人たちが焦って部屋を出ていくのが見えて気になって着いていくと休憩室でAが2人がかりで抑えられている異様な光景

「もう一回言ったら許さないですよ」

「本当のこと言っただけだろ？」

Aと対峙しているのは事務所の先輩

だけど、空気はこの上なく最悪だ。

「‥るせぇよ」

「はっ、見かけだけ女になっても駄目だなぁ？」

久しぶりに聞いたAの低い声だった

その場で動けずにいると部屋を出ようとする先輩と目が合う

すれ違いざまに「後輩はちゃんと躾けろよ～」と出ていく先輩に軽く会釈をする

社員さんに後は僕が、と声を掛けて部屋にはAと2人になる

「何があったの」

「‥。」

「黙ってちゃ分からないでしょう」

びくりとAの肩が揺れる。

僕に怒られると思っているのだろう

とりあえず椅子に座らせ、自分も横に腰掛けるとAがゆっくりと口を開く

「馬鹿にしたから」

「え？」

「天くんのこと馬鹿にしたから」

「は？」

びっくりした。

まさか僕のことで怒っていたなんて思ってもみなかったから

「あの先輩いつも感じ悪いけど私まだ全然馴染めてないし私のことだけなら気にしてなかったけど今日天くんが仕事貰えてるのも楽さんとグループ組んでるからとか、贔屓されてるとか、舞台もコネだとか、言ってて」

「うん」

「どれだけ天くんが努力してるか知らないくせに」

「うん」

「どれだけアイドルと真剣に向き合ってるか知らないくせにあの人何も知らないのに」

そう言いながら大粒の涙を流すAはもう化粧もボロボロ‥
なのに無性に愛おしさで一杯になった