愛玩動物 ページ10
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「此方が出入口で、此処が受付、向かって右が……」
「…ふふっ」
「?、どうかしたの?」
抹本さんはきょとんとした顔で首を傾げる。それがまた何処と無く愛らしくて
でも歳上だろうから、からかってはいけないなと思いつつ顔を向けた。
「ただの我儘だったので…本気で道案内してくれるとは思いませんでした」
「えっ…
だ、駄目だった?」
「いいえ、優しい方なんですね。抹本さんは」
「う、いや、そんなことは…」
「おや…抹本?」
「「?」」
抹本さんと同じような服装。
しかし髪や瞳は白銀のようで、優しく微笑んだ表情は西洋の顔立ちを思わせた。
「災藤さん」
彼のことを、抹本さんはそう呼んだ。
「もうその子と仲良くなったのかい?」
「ちちち違いますよっ!道案内をしていたんです…!」
「ふふ、そうかい
さて…こうやって話すのは初めてだね。お嬢さん」
「…初めまして」
わたしは、おずおずと抹本さんの一歩後ろで軽く会釈した。気恥ずかしいという気持ちもあるが、失礼にならないようにという緊張感が何よりも大きかった。
「初めまして、具合は…良くなっているみたいだね。安心したよ」
「?、あ、有り難う…御座います…」
「私は災藤
君を拾った…と言うよりは、君を病院に連れてきた、の方が正しいかな」
「「???」」
「拾ってきた張本人は管理長」
…拾ってきたって、わたしは猫か何かなのか?
愛玩動物のような扱いに少々複雑に思う。
「肋角さんが?」
「ああ、全く困ったものだよ」
「…すみません。御迷惑をお掛けして」
「いや、君は悪くないさ
…私はそろそろ御暇するよ。看護婦長さんも居ることだしね」
「あ…」
わたしは咄嗟に止めようとするが、引き留めて掛ける言葉は見つからず、ただ黙って遠くなる背を見つめていた。
「…じゃあ、戻ろうか」
「……はい」
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