カウンセリング ページ4
．
「それはなぜだい?」
「えっと、その……誰が私を連れてきたのか
また、病院が建っている地域自体は何処なのか
私は誰だったのかなどと………」
初対面らしき人物に、何を話しているのだろう。我ながら馬鹿馬鹿しく感じる。
「そうだね…
取り敢えず、君が思うその「疑問」について答えようか」
だが男は、カウンセラーのように丁寧に対応してくれた。
「あ……はい」
「君を連れてきたのは、特務室の獄卒達だ」
"獄卒"
昔、本で読んだことがある。生前に罪を犯した亡者を責め立てる………
「……鬼」
「よく知っているね。特務室は閻魔庁の外部機関で、特殊な任務に当たっている……なんて言われているが、簡単に言えば「何でも課」」
「なんでも課……」
「一つ目の回答はここまで、次はこの病院について話そう」
キイ、と悲鳴をあげるみたいに椅子が軋む。
男は芝居のように勿体振った様子で説明を始めた。
「此処はリコリス総合病院。場所はあの世の首都である獄都だ」
「あの世……
私、死んでいるんですか?」
「そうみたいだね」
死んだ筈なのにわたしはあの世の病院にいる。地獄では死後に致命傷を負おうが、既に死んでいるので死ぬことは無いと聞く。これは矛盾だ。
「し…死んでいるのに、治療は必要なんですか?」
「それは特務室の人達に聞いてもらいたい。私も彼等から事情を聞いていないのだよ
だがまあ……」
「…?」
「………いや、なんでもないよ」
彼は何を言いかけたのだろうか。気になるところだが、深追いは禁物。
再びわたしは二枚貝のように固く口を結んだ。
「さて、最後の回答だ。君が誰であるかは、私達も知らない
君は、自分について何か覚えていないのかい?」
わたしについて
唯一、覚えているものは
「ひとりぼっちで
暗いところが、こわいです」
「……そうかい」
頭に何かが覆い被さる。それは男の手で、優しく頭を擦ると直ぐに離れた。
少し気恥ずかしくなって、「すみません」と謝るが、男は「いいや?」と悪戯気に笑った。
「先日、君に代わりの眼球を嵌め込んだのだが…見たところ問題は無さそうだね。
今後の状態によっては退院できる」
本来一度切断された眼球と視神経は繋がらない筈だが、あの世では可能なことなのだろう。
「今日はこれで終わりだよ。可能ならば、院内
を好きに廻っても構わない」
「……はい
有難う御座いました」
わたしは控えめに頭を下げ、診察室から出た。
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