泣き虫弱虫 ページ12
．
「あの!?候補ってなんのことですか!!?」
「えっ、違うの?」
「私は確かに獄卒の方々に此処へ連れてきて貰いましたが、そんな話は聞いていません…!」
「うーん、じゃあ人違い?
でも新規の人型の患者さんは君だけっぽいしなぁ…」
生憎、そんな話を聞いた覚えもない。まずどういうことなのか頭が言葉を
「その…
災藤さんと…肋角さん?が来るらしいので、夜には退院出来ると聞きました。で、えっと、他の方が来てから詳しく聞いた方が確実だと思います」
「そうだね。おれの仕事もさっきので終わりだし、暫くここに居ようかな」
「あの…(「木舌!やっと見つけたぞ!」
「ぴぇあっ!?こここ、今度はダレっ⁉」
「た…谷裂…」
紫色の目をした、坊主頭のいかつい青年(失礼ながらもバットが似合いそうだ、と思った)
「こんな所で道草を食いおって!今日こそは鍛錬に参加しろ!!」
「ひぇ…」
「た、谷裂、この子が怯えて(「貴様が鍛錬を怠るのが悪いのだろう!別に怯えるぐらい…」
「ぅくっ…」
「怯えるぐらい…っ」
わたしは側にあった何かをきゅっと掴んだ。
怒声と反射的にじわわと涙が滲む。溢れんばかりに目に溜まった涙は視界を混ざりあった絵具みたいに歪ませた。
谷裂と呼ばれた青年は木舌さんを睨みつつ、私を横目で見ながら下唇を噛んでいた。
「……っ
婦長にも叱られてしまう。今は黙っておく…」
「そ、そうそう、婦長さん怒らせると怖いからね
あ、夜に肋角さんが来るらしいんだけど、谷裂も一緒に待つかい?暇ならだけど」
谷裂さんの表情は一転する。先程のガンの効いた目が、今は子供みたいにきらきらと煌めいている。
「!…何故それを言わない木舌
ならば待とう。その間静かに鍛錬だ」
「ぐす…なんだか嬉しそうですね」
「こそこそ…(谷裂は肋角さんを何よりも尊敬しているからね)」
「あぁ…納得です」
心なしか彼の頭に犬耳とブンブン揺れる尻尾が生えているように見える。飼い主の帰りを待つ健気な犬のようだった。
…それにしても
肋角さんとは、どの様な人物なのだろうか。災藤さんとは一度顔を合わせたが、『肋角さん』は名を聞くばかり。
わたしを連れてきた張本人である彼を見たいと思う反面、どんな顔をして話をすればいいのか見当も付かず、会うことに不安を覚えた。
「すぅ…」
「…」
わたしはまだ出続ける涙を拭き取って、気持ちよさそうに眠る抹本さんの帽子をそっと取った。
．
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 18人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
