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「好きだよ」

 ほんの数センチ、良い風が吹くからと此方の許可も得ずに開けられた窓より舞い込んできた悪戯な風が、彼の毒々しく冷たい水色の髪で遊ぶ。穏やかな声は確かに優しく鼓膜を揺らし、聞かなかったふりは出来なかった。

 それに、言葉の意味を彼の優秀な脳が理解してしまった瞬間、思わず万年筆で書き込む手を止め、窓枠を掃除していた声の持ち主を振り返ってしまったので。

「...今、何だって?」
「君のことが、好きだよ」

 先程よりゆっくりと、目的語と共に言われてしまっては逃げ場がない。とんでもないことを言った彼は薄い色の大きな目を細め、声と同じように穏やかに笑っていた。桃色に染まったまろい頬に、嗚呼、自分は今この男に愛を向けられているのだなと何処か客観的な自分が捉えた。

 だがそれと同時に彼を支配したのは呆れだった。自分の立場と相手の立場、幼子でも解るそれを確り把握しているはずの彼が不相応なことを宣ったことに、下の立場の人間から小型犬の如く無駄吠えされる時のような苛立ちと、この男も奴等と同等だったのかと、見誤っていた自分に失望を感じた。

「下らないことを言うな」
「...だからと言って君にどうして欲しい、なんてことは無いよ。ただ、君に伝えたかっただけ」

 だからこれからも何も変わらないし、ただ僕が君に恋慕しているという事実を知っていて欲しかっただけなんだ、とはにかんで言う。

「それは何故」
「僕の中の愛情の器から溢れてしまうほど、君のことが好きなんだ。勿体無く溢してしまうよりは、君に受け取ってもらいたかった」

 この告白はとんでもないことであった。目の前の彼が何時もの飄々とした笑顔の裏に斯様に熱烈な好意を隠し、彼と接していたことは兎も角として、暗殺者が王に恋慕の情を抱いていたということは驚愕に値する。

 鬱陶しげに眉間を揉む彼__アルタイルという若き王が、数年後には女と子を成さねばならぬことは火を見るより明らかであり、ここで男が愛を請うたとてそれが受け入れられる筈もない。

 それなのに、彼は、オラフィスは、自己満足だと言って愛を語った。見返りを望まず、ただただ愛を抱かせていてくれと頼んだ。

「愛してるよ、アルタイル君」

 故に、幼い子どもが自身の宝物を仰ぐかのように優しい視線を注がれると、どうにもむず痒く居心地が悪かった。表情の削ぎ落とされた彼はそれをおくびにも出さなかったが。

卑屈な心が満たされて【👑🏰】→←溢れるくらい、君が好き【❄⛄】



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作者名:陽炎 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/Kagerouhp/  
作成日時:2022年5月2日 23時

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