柊英 ページ16
「っくしゅ…ふぅ…」
今日最後のお仕事でラジオの収録を終えて建物を出ると辺りはすっかり日が暮れた後で真っ暗だった。
10月に入った今も昼間は暑さが続いていて、寝苦しい日もあった。
最近は、昼との温度差が徐々に出てきて、この時間には肌寒ささえ感じてしまう。
「羽織る物でも持ってくるべきだったかな。明日からは…っ！」
両手で肌を摩りながら、ちょっと後悔していると、急に肩に暖かな物に包まれた。
建物を出て数歩、周りには誰もいなかったはずで、驚いて振り返ると、さらに驚かされた。
「っ柊羽！え、何でこんな所にいるの？？」
我らがリーダー、柊羽が立っていて、おかえり。と微笑んでいた。
久しぶりに午後からオフで双子と一緒に寮で過ごしていたはず。
まさかと思って辺りを見渡してみたけど、双子の姿はなかった。
『英知、おかえり。壱星と壱流は翼の所に遊びに行ったよ』
メガネに帽子、マスクを付けて変装ばっちりの柊羽が隣を歩きながら説明してくれる。
昼から双子と一緒に夕飯の仕込みをしていて、終わった頃に訪ねてきた翼と一緒に遊びに出かけてしまった。
1人になったから、少し散歩も兼ねて出かけていると、たまたま近くを通りかかったから、俺を待ってた。と。
「そうだったんだぁ…ありがとう、柊羽。丁度寒くなってきたなーって思ってたところだったんだ！」
肩にかけられたカーディガンにくるまるようにすると、柊羽の匂いがして、ほっとした。
『そうだな。この時間は少し冷えるようになってきたから、2人にも上着を持たせるようにしようか。それと、はい。』
手元に差し出されたのは、温かい紅茶だった。
「うわぁ…！ありがとう、柊羽！いただきます！」
受け取ると、柊羽も同じものを買っていたのか、鞄から取り出し、口をつけた。
フゥ…と少し冷ますと、口を付ける。
フワッと香るのは、柊羽の好きな茶葉の香りで、口の中に広がった。
「ふぅ…美味しいね。なんかホットする香り。」
両手で容器を包み込み、自然と緩む頬を柊羽に向けた。
『ああ、英知の口に合って良かった。気に入ったならまた買ってこよう。それより、もう夜も遅い。早く帰ってご飯にしないか？』
言われて初めて足を止めていたことに気づいた。
「あぁ…ごめんね？よし、帰ってご飯だー！今日も美味しいんだろうな〜♪」
ワクワクしながらまた歩き始めると、空いた手に暖かくて繊細な指が絡まった。
『こんなに可愛い英知が見られるなら、冬が楽しみだ』
end
続く
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作者名：ぽむ | 作成日時：2019年3月5日 1時
