君の名を呼ぶ (ページ7)

今日:38 hit、昨日:28 hit、合計:310,750 hit

▼ ページ7

　
　
　
　朝食を済ませた北斗さんは、学校へと出かけた。旦那様と奥様は長く海外の支社へ行っておられて、この時間、広いお屋敷には私とメイド長の二人だけ。当初、今日は特に来客の予定もなかったから二人で大丈夫だろうと他のメイドさんはお休みを取っていて、急なお客様がいらっしゃるための準備に、予定を変更することになった。

　午前中にお部屋の掃除と、ジェシーさんが泊まっていかれても大丈夫なように、ゲストルームの準備をする。メイド長が食事の仕込みをしている間に、北斗さんに頼まれた赤ワインを買いに、私は午後から買い出しに出かけた。
　北斗さんは冗談混じりに「安いのでいいから」と仰ったけれど、そういう訳にはもちろんいかなくて。メイド長から、ジェシーさんのお好みだから、とワインの銘柄を指定されて、それを買いに馴染みの酒店へ向かった。

　比較的交通量の少ない、でもきちんと歩道が整備された道を歩いていけば、背後から来た車がスーッとスピードを落とす感覚がした。少し身構えて車をやり過ごそうと立ち止まると、同じように車がすぐ目の前にハザードランプを点灯させながら止まった。かと思えば、すぐに後部座席のドアが開いて、中から背の高い人影が降りてきた。

「Aちゃん！」
「ジェシーさん……？」

　こんにちは、と頭を下げると、ダンッと車のドアを閉めたジェシーさんが小走りにこちらへ向かって来る。長い脚で軽々とガードレールを跨いだジェシーさんは、

「どうしたの？散歩？」

と、北斗さんよりもまだ少し高い目線から私を見下ろした。

「いえ、買い出しの途中です」
「あ、俺、今日お邪魔するからだ？」
「北斗さんから、赤ワインを準備するようにと……」
「いいね！今から？」
「はい」
「よし、じゃあ行こう！」

　ニコッと笑ったジェシーさんはサッと私の手を取ると、

「ていうか、俺、赤じゃないのリクエストしてもいい？」

と、私の返事なんて聞きもしないで、私の手を引いて歩き出した。

「あ……の、ジェシーさん……！」
「あ、ゴメン。歩くの早かった？」
「いえ、違……手を……」
「じゃあ、ゆっくり行こうか」

　そう言ったジェシーさんは、その長い指を私の指と絡ませて、ゆるりと優しく握った。その、柔らかい弾力にドキリとしたのを見透かすように、

「……行こ」

と、ジェシーさんは私の耳元で囁いた。