11 ページ36
90分の授業が、一生続くかと思った。
ホントなら、今日の授業はサボりたいくらいの気分だった。
夕べからのジェシーの、あの妙な熱感。Aさんへ向ける視線がヤケに熱っぽくて、何でか俺の方がハラハラした。何でって……その熱量には覚えがあるから。その視線の先にAさんがいて、彼女を見つめるジェシーのその瞳は、オスの熱と、でももっと深い愛情が見え隠れする。それは、知った感覚でもあるから敏感に感じ取れたし、だからこのまま彼女を一人に出来ないと思った。
授業が終わると文字通り教室を飛び出して、一秒間でも早く家に帰り着く方法を考える。車出してもらえば良かった、なんて思っても後の祭りで、タクシー拾うか？それなら駅前まで出た方が、いや駅まで行くならまだ電車の方が、と考えながら走っていたら、
「松村くん……っ！」
と、可愛いらしい声に呼び止められた。誰？と思って完全に立ち止まらずに振り返ると、透き通るみたいな白い肌に映える茶色い髪が揺れるのが目に入った。
「……京本、さん」
「あ……ごめんなさい、」
スピードを落としたそのままに足を止めると、髪をふわりと跳ねさせて彼女が俺のそばに駆け寄って来た。
「あー、ゴメン。ちょっと急いでて」
「そうなんだ、呼び止めちゃってゴメンなさい」
「いや……何か？」
俺の問いかけに、んっ、と言葉を詰まらせた彼女は、
「あの、松村くんもしかしてもうお家帰るのかな？」
と、意を決したように顔を上げた。所謂デートのお誘いというならこんなにタイミングの悪い話はなくて、
「ゴメン、ホント急いでて。帰んなきゃなんだよね」
と、顔の前に手を上げて、もう一度ゴメンと眉を下げる。それなのに、彼女は俺の袖をくっと掴むと、俺の目を真っ直ぐに見た。
そんな目で、見られても。
そう思った次の瞬間、彼女の放った言葉に俺は視界が開けたのを実感した。
「私、迎えの車が来てるの。よかったら送ろうか？」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1115人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ubisi
| 作者ホームページ：https://marshmallow-qa.com/ubisi_0122
作成日時：2022年3月26日 0時
